【映画】『宮廷画家ゴヤは見た』
この映画はおもしろかったです。
映画を見るときに、私などは、あんまり監督の名前を気にしたりしなくて・・・監督さんごめんなさい、という感じなんですが、この作品は
1975年『カッコーの巣の上で』
1984年『アマデウス』
で、二度のアカデミー監督賞に輝いたミロシュ・フォアマン監督の作品なんですね〜
というのを、見終わった後に知りました。ついでに、『カッコーの巣の上で』と『アマデウス』が同じ監督の作品というのも、今回初めて知りました。ううう、無知すぎてすみません。
んでも、さすが、予備質知識なしでもおもしろかった!!と思いましたよ。
この映画を知ったのは、『ブーリン家の姉妹』のDVD中の予告で。なんだか、二時間ドラマみたいなタイトルですこと!!と思い、笑いながら借りたんですが、まさかこんな内容とはっ。
時代背景は、最初に兵士のファッションを見て、『ブーリン家』よりだいぶあとの
ロココに近い時代かな〜??と思って見ていたら、途中フランス革命がはじまり、ナポレオン軍が侵攻してきたり、まさにロココ末期から物語は始まります。
ナタリー・ポートマン目当てで見た映画なんですが、かなり強烈です。『ブーリン家の姉妹』も相当いいと思いましたが、このナタリーは、ホント、すごい。
すっごく、陰鬱で救いのない時代のお話なんです。異端尋問で無実の罪でとらわれる恐怖とか、次々と支配者が変わって、そのたびに略奪や虐殺されたり、運命に翻弄され続ける民衆。
この映画は、主人公に二人の人間を据えつつ、実際に描きたいのは、そう言った一連の流れや、人としての弱さなんだろうなーと思いました。
最初のほうは、ディナーで豚肉を食べなかったという、ただそれだけ(ユダヤ教信者は豚肉を食べないので)で、異端尋問されてしまうナタリーが痛々しくて、彼女を救おうとする家族の必死さとか、その寄付だけ受け取って、娘を釈放しない教会の腐敗ぶりとか・・・
もうね、見ていて辛くて、ちょっとここで挫折しそうになりました。
異端尋問と魔女狩りは、厳密には違うものですが、こういうのって、ある意味スケープゴード的なもので、貧しい人とか孤独な人が標的にされたんだと思っていましたが、魔女狩りはそういうものだったようですが、異端尋問は違うんですね。
裕福な商人の娘で、若く美しい女性が罪もなく囚われて、釈明もなく、その後15年にもわたって牢に繋がれたままなんて、なんだかもう、まさに一寸先は闇で、真っ暗闇の世の中だなと。
ナタリー演ずるイネスも、ロレンゾ修道士も実在しないのですが、こういうことは実際にあったのでしょう。
15年後に牢から出られたのも、単にナポレオン軍の侵略で、異端尋問が廃止されたから。でもその頃には、イネスは正気ではなく、また、家族はみんなナポレオン軍に虐殺されていました。牢にいたおかげで助かったともいえるけど・・・
そいでもって、ここで衝撃の事実が。イネスはなんと、獄中でロレンゾ神父の子を産んだと言います。
この辺りから物語はがぜん面白くなって、ぐいぐい引き込まれます。
んで、ここでゴヤが活躍。
もともと、ゴヤは、イネスもロレンゾも肖像画を描いた間柄。イネスが囚われた時に、ゴヤを通じて、イネスの父がロレンゾにとりなしを願ったということもありました。
そこで「拷問での自白は信用できる。なぜなら、無実ならば、神に守られて痛みも苦しみも感じないからだ」と言い放ち、イネスの家族によって拷問され、自分は猿だと自白させられます。
そんなこんなで、国外に逃げ出したロレンゾが、フランス軍の力を借りてすごい権勢をバックに、鼻息荒く帰ってきます。すでに家庭もあるロレンゾに、イネスとその娘は邪魔なだけ。ロレンゾは、イネスを精神病院に入れてしまいます。
んで、ロレンゾもゴヤもそれぞれに、イネスの娘を探します。ゴヤは偶然、町でイネスそっくりの娘に出会います。それが、イネスが産んで、預けられた修道院を脱走して、今は娼婦をしている娘のアリシアでした。
逃げ出したものの、女が生きていくには身を売るしかなかった時代。イネス獄中にいたのは15年なので、アリシアはまだ14〜5歳なのに。
イネス役のナタリーが、なんだか中途半端な金髪なのに、アリシア役は黒髪でいかにもスペイン美女という感じで、こっちのほうがいいなーと思いました。
イネスはすっかり正気を失って、拾った赤ん坊を自分の娘だと言い張ったり、とにかく悲惨のひとこと。ナタリーの熱演がすごい。
そんなイネスを救えなかったことを悔やんだゴヤは、イネスを精神病院から救い出し、必死に母子を会わせようとするのですが、すんでのところをロレンゾに阻まれ、アリシアは軍にとらわれ、アメリカ行きの船に乗せられる道中、イギリス軍の大軍とはちわせに。
また時代は変わり、かつて異端尋問をさばいたロレンゾが、今度は裁かれる立場に。そして死刑が執行されるんですが、拾った赤ん坊を高く掲げて、イネスは何度も叫びます。「ロレンゾ、見て、あなたの娘よ!」
そして、二人の娘アリシアは、イギリス軍の将校と一緒に、それをは知らずに、自分の父親の処刑を楽しそうに見物。そんな娘の姿を認め、イネスの姿を最後に見たロレンゾは、何か達観した感じで、最後に処刑されて行きました。
荷車で運ばれて行くロレンゾの死体を、取り巻いて歌う子供たち。(当時は本当に人の処刑は、老若男女通じて娯楽だったんですね)彼と手をつないで歩いて行くイネス・・・・
あわれとしか言いようがないのですが、イネスは幸せだったのかも。
この時代、正気を失うことでしか、幸せを得られない時代、そんな風に思いました。この時代に生まれなくて本当によかった。
ところで、「ゴヤは見た」賛否両論ありそうなタイトルですが
「イネスの家族がロレンゾを尋問するところ」
「イネスがロレンゾの子供を産んだと告白するところ」
「アリシアが目の前でフランス軍に連れ去られるところ」
「ロレンゾの処刑」
すべて「ゴヤは見た」のです。すごくピッタリなタイトルだと思います。
タイトルバックに流れるゴヤの絵。怖い絵のときに流れる怖い音楽にうなされそうでした。
とにかく描きたい、描いて残したいと言うゴヤの報道画家的欲求も、同じ絵を描くものとしてわかるような気がします。
余談ですが、ゴヤが最初にロレンゾの絵を描くときに
「手は難しいから別料金」
と言われて、すぐに手をひっこめたロレンゾが面白かったのです。
その後、展覧会の近代以前の絵画に手が描いてあると
「別料金」「お金持ちだね」
と笑い合うようになってしまいました。
映画っていろんな楽しみをくれますね。
個人的には、ロレンゾ修道士役の、バビエル・バルデム(また覚えにくい名前だこと)の顔が、どうしても好きになれなくて、どーでもいいのですが、この人、本当に最近、ペネロペ・クルスと結婚したそうなんですね。(本当にどうでもいい)
この映画のDVDの予告に『コレラの時代の愛』があって、タイトルとかのデザインは、めっちゃ素敵なんですが、主演の人の容貌がどうも・・・と思っていたら、コチラの主演も、このバビエル・バルデムさんでした。
51年間、同じ女を思い続ける男性を演じてるんですが、原作は、ガルシア=マルケスの名作だそうで、これは映画じゃなくて、小説で読もうかな。
あと、この映画でナタリーは絵画のモデル役をしていますが、『ブーリン家の姉妹』で妹役を演じていたスカーレット・ヨハンソンは、あのフェルメールの謎に迫って話題になった映画『真珠の耳飾りの少女』を演じているんですね。
当時見に行ったフェルメールの展覧会の感想は→コチラ■
これも一度見てみたい映画です。
宮廷画家ゴヤは見た
Goya's Ghosts
* 監督:ミロス・フォアマン
* 製作:ソウル・ゼインツ
* 製作総指揮:ポール・ゼインツ
* 脚本:ミロス・フォアマン、ジャン=クロード・カリエール
* 撮影:ハビエル・アギーレサロベ
* プロダクションデザイン:パトリツィア・フォン・
ブランデンスタイン
* 衣装デザイン:イヴォンヌ・ブレイク
* 編集:アダム・ブーム
* 音楽:ヴァルハン・バウアー
出演者
* ハビエル・バルデム:ロレンゾ修道士
* ナタリー・ポートマン:イネス・ビルバトゥア/アリシア
* ステラン・スカルスガルド:フランシスコ・デ・ゴヤ
* ランディ・クエイド:国王カルロス4世
* マイケル・ロンズデール:グレゴリオ神父
* ホセ・ルイス・ゴメス:トマス・ビルバトゥア
* マベル・リベラ:マリア・イザベル・ビルバトゥア
* ブランカ・ポルティージョ:王妃マリア・ルイサ
* ウナクス・ウガルデ:アンヘル(イネスの兄)
* フェルナンド・ティエルブ:アルバロ(イネスの兄)
* ジュリアン・ワダム:ジョゼフ・ボナパルト
音楽 ヴァルハン・バウアー
撮影 ハビエル・アギーレサロベ
編集 アダム・ブーム
公開 2006年11月8日 (スペイン)
2007年7月20日 (アメリカ)
2008年10月4日 (日本)
上映時間 114分
製作国 スペイン
アメリカ
言語 英語