「白河夜船」(吉本ばなな) 向こうの世界とのはざまで

最近、本を3冊読んだ。宮本輝さんの「星々の悲しみ」「葡萄と郷愁」と吉本ばななさんの「白河夜船」。宮本さんのは、自分とは境遇が違いすぎて、おもしろいと思って読むけれど、共感と言うのとは、少し違う感じ。やっぱり、女性のもののほうが、入り込みやすいかな、とは思う。でも、自分とまったく違う世界を垣間見るのも、読書の醍醐味ではあるので、どちらも、楽しんで読んでいました。

「白河夜船」は、タイトルどおり、うとうとと眠ってばかりいる女の子の話。この人の作品には、よくあの世に行っちゃった人とか、現実との狭間とかが出てくる。いわゆる「奇妙な世界」に入り込んじゃった、みたいな話が多い。この本には、3つの中篇が収められているけれど、睡魔に襲われている人と、酔っ払いが出てくる(笑)覚醒していない状態にあるときの人間は、はからずも、あの世との境の扉を開いてしまっているのかもしれない。

強い悲しみや、どうしようもない無力感に襲われたとき、底の見えない深い苦悩の沼に落ち込むとき、人はどこかに逃げ場を探そうとするのかもしれない。わかりやすいのは、お酒や薬物に逃げること。それと同じように、眠りに逃げ場を求める。でも、逃げてもどうにもならない。

どんなに苦悩しても、朝日は昇り、紫に空を染めて日は沈む。どんなに苦悩しても、花は咲き、鳥は春を告げて高らかに鳴く。どんなに苦悩しても、美しいものを見れば、心が震える。それが生きると言うことだから。


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