口から生まれた女を黙らせる、ホーチミンで出会ったおばさま

ベトナムのホーチミンを旅した。

8月のベトナムは雨期で、たびたびスコールに見舞われた。
その度にカフェなどに避難して時間が潰れたが、急ぐ旅でもなかったので、そんな経験も心地よかった。

2012年頃の私はヒマだったらしく、マメに旅行絵日記をつけていた。
それを元に、時系列は無視して、思いつくままに書いてみようと思う。(これを書いているのは2019年8月)

これは旅行3日目の話。

最初に言っておくと、この話はベトナムが良かったとか感動したとか言う話ではない。
そういう話は期待してはいけない。

ホーチミン観光の目玉のひとつ「統一会堂」は、南ベトナム時代の旧大統領官邸で、ベトナム戦争終結の場所。
そこからこの話は始まる。


二人旅に突然割りこんで来たおばさま

建物内部の美しい調度品や今も残される戦闘機などの戦争の爪痕を見て、ホッと一息。
人影もまばらな部屋でオットと話していると、突然日本語で話しかけられた。
「あら、あなたたち、日本人?!」
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その声の主は、都内で一人暮らしをしているという日本人女性だった。
夏と冬は気候の厳しい日本にいるとコスパが悪いので、物価の安い東南アジアで過ごすことにしているそうだ。
特にリタイアした現在は、一ヶ月以上かけてゆっくり一か国を回っているという。

「あなたたち、ベトナム滞在、たった5日間なの?
私なんて夏と冬は日本にいないのよぉ」

ああそうですか。暑さでアタマがよく回っていなかったのかもしれない。
旅は道連れですから、などと言ったつもりもないのだが、いつの間にかおばさまは、私たちの観光にくっついてきた。

おばさまの解説を聞きながら、なんとか統一会堂の観光を終えて外に出ると、広い芝生が広がっていた。

いつの間にか増える道連れ

なぜかそこで輪になって立つ私たち。そしていつの間にか、メンバーが増えていた。
小太りの日本人男性(30代)がいつの間にその場に加わっていたのか、今ではまったく思い出せない。

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クソ暑い中で、そのまま1時間ほど立ち話をする。
恐らく、誰もがこの先どうするかという明確なプランがなかったからだろう。

男性が唐突に言い出した。
「安宿に泊まってるんですけど、昨日の夜バスルームのカギ壊れちゃって」
「ええっ!それは大変!!」と我々が驚いていると、おばさまがすかさず
「あら、私もバスルームのカギ壊れたわよ!偶然ね!」

ぐ、偶然。それって偶然なのか?ベトナムのホテルではちょいちょいあることなのではないか?
思わず今夜の宿が心配になる。
それにしても、偶然出会ったおばさまと男性の間には、ものすごい共通点があったものだ。

おばさまの割り込みを華麗にスルーして彼は話し続けた。
わかったのは、彼が昨晩ものすごい体験をしたということだった。

バスルームに閉じ込められて絶体絶命
彼は昨夜、鍵が壊れてバスルームに閉じ込められてしまった。
真っ裸で洋服は部屋だったが、幸いケータイはバスルームに持って来ていた。
しかし契約上の問題で電話は使えないから、ホテルに連絡することができない。

そこで彼は、ネットで日本の友人に連絡した。
友人からベトナム在住の友人につないで、ホテルに連絡してもらって助かったのだそうだ。

「おお!ネットすげー!」と思わず拍手喝采(オットと私が)。

そのあとおばさまがひと通り自分の身に起きたことを話した。
しかし、彼の話がすごすぎて、どんな内容だったか覚えていない。

そこで、私たちが屋台での食事を未体験と話したら
「信じられない!せっかくベトナムまで来たのにもったいない!行きましょう!」
とおばさまに無理やり連れて行かれることに。

屋台での戦闘モードにぐったり

ベトナム人はたくましい。
東南アジアの人たちが日本人とみれば金額を吹っかけてくるのは普通のことだと思う。
しかし、私の見てきた限り、交渉した際に値下げしておいて、支払いの時にシレッと元の額を請求して来るのはベトナム人だけだ。

そんなわけで、食べ始める前にひとしきり、おばさまと男性VSお店の人との間にバトルが勃発。
なかなか食べ始められなかった。

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勝ち誇った顔で食べ始めるおばさま。
その場にいると、1,000円くらい値切ってやったような錯覚に陥るが、冷静になってみれば、
その争いで勝ち取るのはせいぜい10円や20円程度なんだよね。恐るべし、ベトナム。

おばさまは小食らしく、オット宮田に食事を分けてくれた。ていうか、どう見ても男性の方がよく食べそうだけど。
おばさまは彼には「あんたはいいわね」と言ってつれない。
やせている宮田に「あんたはもっと食べないと」と言って、有無を言わさず器に食べ物を放り込んできた。

そこで、男性が某出版社でシステムを担当していて、共通の知人(編集者)がいることが判明。
あまりに世界が狭くてくらくらした。

女二人と男ひとりの奇妙な珍道中
男性とはそこで別れ、おばさまと一緒に戦争博物館に向かうことになった。
そこで閉口したのはおばさまのおしゃべりである。

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こう見えて(どう見えて?)、私はよくしゃべる。

オット宮田は無口な方で、付き合った女性は大概口数が多かったそうだ。その中でも私は「チャンピオン」だという。

ただ、私の場合は、時と場合によるというか、時には聞き役に徹することもある。
相手の話がとても面白い時か、私以上によくしゃべる人に会った時である。

このおばさまと一緒に過ごした時間も、ほぼ私は聞き役だった。
それがどちらの理由なのかは、深くは追及しまい。

写真家のオット・宮田が撮ったおばさまの写真。見事にずーーっとしゃべっている。

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おばさまはによれば、私たちはとっても「ラッキー」らしい。

なぜなら、自分は日本に二人といない人間で、そんな自分と知り合えたのだから。(自分で言うか?)

ケータイは持ってない、テレビは見ない、ネットもしない(パソコンは使えるらしい)そうで。
「どぉ?こんな人いる?」このおばさまにそう言われて否定できる人も日本にはいないと思う。

おばさまいわく、今までに普通の人ができない経験をたくさんしてきたのだそうだ。
タイで大臣からディナーに誘われたという話などは、確かにすごいけどね。

「女一人で旅しているとすごく親切にされる」らしい。
そして私は「いつも旦那さんと一緒だから、親切にしてもらえなくてかわいそう」なのだそうだ。
そーか、知らなかった。私ってかわいそうだったのか。

博物館を出た後、おばさまはサトウキビジュースをごちそうしてくれた。
昔の洗濯機についてた脱水機みたいなので、お姉さんがぎゅーぎゅー絞ってくれるジュースはとてもおいしかった。

そこでもおばさまは、知人のカメラマンの話を延々とし続け、宮田に的外れな説教まで始めた。
おばさま自身はカメラを持ってもいなかったけどね。
ありがたく拝聴しながら、黙って彼も私もひたすらサトウキビの甘さを味わうしかなかった。

ひとりじゃない「一人旅」

一人旅が好きと言いながら、おばさまはその実、話し相手を探していた。
私たちのことも、遠巻きにずっと見ていたようだ。

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私はすぐに日本人に見えたって言うけど、アオザイ着てたんですけど。

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まぁアオザイっていっても、横浜で買った浴衣地のアオザイだけど。

そして、日本人に見えなかったというオット。。。

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彼に関しては、ほかにもネタがあるのだった。それはまた別の話で。

もはやストーカーと化するおばさま

夕方、おばさまは私たちのホテルまでついてきた。

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そのホテルもまぁまぁ安宿で、一階がカラオケというなかなかなもんだったけど、
おばさまは「ふ〜〜ん、いいホテル泊まってるわね」とつぶやいた。
とりあえず、バスルームのカギは壊れなかったけどね!

「夕飯何時にする?迎えに来るわ」と言うおばさまの申し出を、オットと私は、あうんの呼吸で
「すみません、今日は何か疲れちゃったので、夕食食べずに寝ます」と言って丁重にお断りした。
おばさまは、それじゃ明日は?とかいろいろ言っていたような気がするけど、よく覚えていない。

もちろん「夕食を食べない」というのは嘘で、部屋で休んだ後、市まで出かけた。
鶏肉麺(フーティウ (Hủ tiếu))と生春巻きを堪能した。(上のオットの写真)

それとサトウキビジュースで乾杯。
サトウキビジュース、最高!!このおいしさを知ることができたのは、おばさまに感謝、である。

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あのおばさま、何してるかなぁ、とたまに思い出す。
ちょうど今頃はまた東南アジアのどこかの街で、たくましく誰かに話しかけているのだろうか。
今となっては懐かしいし、あれはあれで面白かった。確かに二人といない人と巡り会えたのかもしれない。

実はおばさまに強引に住所を交換させられ、帰国後、割とすぐに葉書が届いた。もちろん、返事は書いていない。


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7時間も一緒にいたのか。。。


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