ルソーの見た夢、ルソーに見る夢

世田谷美術館で開催されていた「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」を、最終日ギリギリになって見て来た。
http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/sp_detail.php?id=sp00133
開館20周年記念 ルソーの見た夢、ルソーに見る夢
アンリ・ルソーと素朴派、ルソーに魅せられた日本人美術家たち

「夢」をキーワードに、ルソーの魅力とその影響を探る

20世紀美術の中でも特異な位置をしめる画家アンリ・ルソー。彼の芸術は、夢と現実が交錯する詩情に満ちた幻想世界であり、誰にも真似のできないものでした。ルソー芸術の持つ「夢の力」は、多くの芸術家を魅了し、それは遠く日本にも及びます。

当館開館20周年を記念する本展は、ルソー、およびルソーにつづく、フランスの素朴派、そして、ルソーに魅せられた近代日本の洋画家、日本画家、写真家、さらに現代美術家たちの作品をご紹介いたします。
            


小春日和の冬の日、東急田園都市線・用賀駅に初めて降り立った。
しっとりとした住宅街には、優雅なマダムとプードルが似合うし、ちょっと頑固そうなご隠居と柴犬も似合う。

そこからのんびり、用水路沿いに歩いていくと、やがて緑豊かな公園に辿り着く。砧公園だ。大都会東京に住むと、ギラギラとしたイメージとは裏腹に、意外なほど公園などの緑が多いことに気づく。新宿副都心に横たわる新宿御苑しかり、この砧公園しかり。

そこから少し迷った。どうやらそれはワタシだけではないらしく、迷いつつ落ち葉を踏みしめながら歩いていると
「すみません、世田谷美術館はどちらでしょうか」
とご婦人に道を訊かれた。
「ワタシも今向かってるんですけど、たぶんこっちだと思います」
と、訊いたほうが不安になるような返答をしてさらに行くと、ありがたいことに美術館の建物が見えてきた。

前置きが長くなったけど、いよいよ展覧会会場へ。最近行った美術展の中で、一番すいていたのがこの展覧会だった。最終日にもかかわらず、ストレスを感じることなく鑑賞できた。
ルソーが不人気なわけではないと思うのだけど、ダリや仏像のような異常な混雑ぶりを見た後では、ほっとする。

さてこのルソー。素朴派の代表的な画家である。
もともとはお役人だったのが、50歳手前で退職し絵に専念する。これは青物問屋だった若冲が、40で家督を弟に譲り渡し、絵に専念したのと同じではあるが、すぐにその「天才」を発揮した若冲に対し、ルソーの絵は、周りから失笑とともに迎えられる。

ルソーにとって転機となるのが、ピカソのサロンに呼ばれて、みなの前でピカソから認められたこと。そのときルソーは60代。対するピカソ(1881-1973)はまだ20代の若者だった。

アンリ・ルソー
アンリ・ジュリアン・フェリックス・ルソー
(Henri Julien Félix Rousseau, 1844年5月21日 - 1910年9月2日)
19世紀〜20世紀フランスの素朴派の画家。

作風
ルソーの絵に登場する人物は大概、真正面向きか真横向きで、目鼻立ちは類型化している。また、風景には遠近感がほとんどなく、樹木や草花は葉の1枚1枚が几帳面に描かれている。
このような一見稚拙に見える技法を用いながらも、彼の作品は完成度と芸術性の高いもので、いわゆる「日曜画家」の域をはるかに超えており、19世紀末から20世紀初めという時期に、キュビスムやシュルレアリスムを先取りしたとも言える独創的な絵画世界を創造した。

ルソーの作品は、画家の生前はアポリネール、ピカソなど少数の理解者によって評価されたのみであった。ルソーの年譜に必ず登場するエピソードとして、1908年、ピカソ、アポリネールらが中心となって、パリの「洗濯船」(バトー・ラヴォワール)で「アンリ・ルソーの夕べ」という会を開いたことが挙げられる。これは、からかい半分の会だったとも言われるが、多くの画家や詩人がルソーを囲んで集まり、彼を称える詩が披露されたのだった。

ルソーの絵には、何か人をひきつけるものがある。ワタシも実は、大昔、実家に住んでいた頃、何年もルソーのポスターを、部屋に飾っていた一人。牛と農夫を描いた作品だが、人物に対して牛が大きすぎて、今にも牛にがぶっと丸呑みにされそうなのに、なんともいえないのどかな空気も流れている、不思議な絵。

これは倉敷の大原美術館のものなんだけど、約15年ぶりに再会。ちょっと感動。

今回の展示の目玉は、ルソーだけでなく、彼から影響を受けたたくさんの画家達の作品を見ることができたこと。

イラストレーターを言う仕事をしていて思うのは、いい絵、売れる絵、人をひきつける絵というのは、うまい下手ではないということ。
ルソーから影響を受けた画家の中には、ルソーよりはるかに技術的に優れた画家もたくさんいる。それでも彼らがルソーになれなかったのはなぜなのか。

それが絵を生業としていくことの難しさを語っていると言える、と思うのだ。


「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」

世田谷美術館は、今年開館20周年を迎えます。
1986年に「芸術と素朴」展をもって開館。以来、芸術における素朴なるもの、ひいては芸術における初心とは何かを問いかけることを活動の核としてまいりました。

この秋、世田谷美術館では、20周年を記念して、活動の象徴的な存在ともいえるアンリ・ルソーを正面からとりあげる企画展を開催いたします。この不思議な魅力にあふれる画家の世界をご紹介すると同時に、アンリ・ルソーが私たち日本人にどのように捉えられてきたのかを検証し、ご紹介する企画です。

素朴なる一老画人の見た夢は、いかにして日本にたどり着き、現在の私たちの心に触れるのでしょうか。そして、ルソーの夢は、日本の芸術家たちにどのような夢を描かせたのでしょうか。

本展においては、第1章で日本のコレクションに入ったルソー作品、第2章でルソーに続き、素朴派の発掘の端緒を開いた「聖なる心の画家たち」の作品、第3章で日本近代の画家・写真家とルソーの関わり、そして終章として、現代作家とルソーをそれぞれ紹介展示いたします。ルソーの人と作品が内包する「夢の力」を多くの皆様にご鑑賞いただければ幸いです。

講演会やワークショップの企画に関しては、ウェブサイトで詳細をご確認ください。

スケジュール:2006年10月07日 〜 2006年12月10日

入場料:一般 1200円、大高生・65歳以上 900円、小中学生 400円

開館時間:10:00から18:00まで(月曜休館)

アクセス:東急田園都市線「用賀」駅徒歩17分、
東急田園都市線「用賀」駅美術館行バス「美術館」下車徒歩3分、
小田急線「成城学園前」駅渋谷駅行バス「砧町」下車徒歩10分、
小田急線「千歳船橋」駅田園調布駅行バス「美術館入口」下車徒歩5分、
東横線「田園調布」駅千歳船橋行バス「美術館入口」下車徒歩5分

住所:〒157-0075 東京都世田谷区砧公園1−2

電話: 03-3415-6011


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