東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」

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東京での2日目は、トーハクへ。
この時期の上野と言えば都美のムンク展と上野の森のフェルメール展が二強のようですが、あえてトーハク。
デュシャンです。最終日でした!
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デュシャン(Marcel Duchamp、1887年 - 1968年)

一緒くたにしては叱られそうだけれども、難解なんです、デュシャン。ダダ自体がよーわからんのですが、作風がシュルリアリスムではっきりしてるマン・レイとかマックス・エルンストはまだわかりやすい。でも印象派やキュビズムなんかはもっと分かりやすい。絵画の様式で語れる芸術って、実はけっこう分かりやすい。そこを否定するところから始まっているのがデュシャン=ダダイズムだったりするのです。

もちろん若い頃は、デュシャンも絵を描いております。それこそ、印象派やフォーヴィズムなど。キュビズムの絵や大ガラスの作品の習作なんてすごく素敵です。彼は普通に画家として活動しても、それなりに名を成したことでしょう。

しかし彼の偉大はところは、それをしなかったこと。むしろ、否定したことにあるのです。デュシャンが画家だったのはほんの若い25歳頃までのことでした。(そこからはチェスばっかやってたらしい)そしてこの展覧会は、デュシャンがその芸術活動の中で否定しながら表現したものに、日本美術との共通点を見出します。

平成館ははじめてかも?森鴎外室長室があったの????日曜で最終日なのになんでこんなに空いてるの〜??(涙)
ええ声(麒麟・川島)の音声ガイド借りれば良かった〜(笑)
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デュシャンは、画家の時代から、時間に対する一風変わった概念を持ち、その作品の中に、時間を封じ込めました。時間の経過や動きを一枚の絵で表現したのです。それが、日本画の中の一枚の絵巻物の中の時間の概念と通じるものがあるとしています。何度も同じ人が登場する、時間の経過を一枚で表現した絵巻物の世界は確かにデュシャンの感覚と似ているかもしれません。

また、美術は特別で美しいものであるということを否定しました。
チラシにも使われた「泉」は、レディメイド(日用品)として特に有名な作品ですが、ただの便器ですし、他にも自転車の車輪そのままの「車輪」など。また、未完成のまま放棄され割れてしまった『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』(通称《大ガラス》)(1915-23)(複製)(←左)
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この、既存の芸術のように、芸術として作られた「作品」ではなく、日用品に「美」を見出すダダイズムの感性が、やがてはネオダダからポップアート(大衆芸術)に影響を与え、ウォーホールの「キャンベルスープ」へ行きつくわけなのですね。

そして、この「日用品の美」というのはまさに、日本の茶の湯などの「用の美」に通ずるのです。素晴らしい!

それから女装した写真作品も「既存の概念」をぶち破っているんですね。今ではファッションや女装も自己表現の一つとみなされますが、当時はとんでもないことだったんでしょう。ここにマン・レイが登場します。(会場内はほとんど写真OKでしたが、マン・レイの写真だけ、著作権の問題か写真撮影不可でした)

ローズ・セラヴィ (Rrose Sélavy)
1921年、マン・レイ撮影による一連のデュシャンの女装写真に登場して以来、1920年代を通して、マン・レイとデュシャンは、さらにセラヴィの写真を作り続けました。
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左)マン・レイ撮影のポートレイト「Rrose Sélavy」、1921年。アート・ディレクションはマルセル・デュシャン。ゼラチン・シルバープリント 5-7/8" x 3-7/8"。フィラデルフィア美術館蔵。
右)「Belle Haleine」の香水瓶のラベルに仕立てられたマン・レイ撮影のポートレイト、1921年。

それにしても、同時代のほどんと画家がせっせと自分のスタイルを追求し、絵を描き続けても売れなくて苦労した中で、サッサと絵に見きりをつけて、その後は自分の感性や概念だけで、若い頃から芸術家としての地位を極めたデュシャン、カッコよすぎです!!

ところで、Wikiにこんな気になる記述が。
2006年、パリのポンピドゥー・センターの企画展ギャラリーで行われた「ダダ展」で、従来よりポンピドゥー・センター内の国立近代美術館で普段はガラスケース内に展示されていた『泉』が、この企画展に移されケース無しで展示されていた。企画展終了の数日前、一人の男がこの『泉』をハンマーでたたき、国立近現代美術館所有の『泉』は破損した。警察発表によればこの男は「自分のやった事は芸術的パフォーマンスであり、デュシャンも理解したはずだ」と述べたという。
確かに、壊れた「泉」を前に、デュシャンなら大笑いして「それならこれは『壊れた泉』だ」と言いそうです。

マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp、1887年7月28日 - 1968年10月2日)(81歳没)
フランス生まれの美術家。20世紀美術に決定的な影響を残した。画家として出発したが、油彩画の制作は1910年代前半に放棄した。チェスの名手としても知られた。ニューヨーク・ダダの中心的人物と見なされ、20世紀の美術に最も影響を与えた作家の一人と言われる。コンセプチュアル・アート、オプ・アートなど現代美術の先駆けとも見なされる作品を手がけた。

マン・レイ(Man Ray, 本名:エマニュエル・ラドニツキー Emmanuel Radnitsky, Эммануэль Рудзицкий, 1890年8月27日 - 1976年11月18日)(86歳没)
アメリカ合衆国の画家、彫刻家、写真家。ダダイストまたはシュルレアリストとして、多数のオブジェを制作したことでも知られる。レイヨグラフ、ソラリゼーションなど、さまざまな技法を駆使し、一方でストレートなポートレート(特に同時代の芸術家のポートレート)も得意とし、ファッション写真と呼べるような作品もあったりと、多種多様な写真作品群を残している。

マックス・エルンスト(Max Ernst, 1891年4月2日 - 1976年4月1日)(84歳没)
20世紀のドイツ人画家・彫刻家。ドイツのケルン近郊のブリュールに生まれ、のちフランスに帰化した。ダダイスムを経ての超現実主義(シュルレアリスム)の代表的な画家の1人である。作風は多岐にわたり、フロッタージュ(こすり出し)、コラージュ、デカルコマニーなどの技法を駆使している。

◇両者の関係◇
デュシャンとマン・レイは親友同士で、1921年「ニューヨーク・ダダ」誌を共同で創刊する。
1946年、マックス・エルンストとドロテア・タニング、マン・レイとジュリエット・ブラウナーが合同で結婚式を挙げた。

マルセル・デュシャンと日本美術
10月2日(火)〜12月9日(日)東京国立博物館
フィラデルフィア美術館の所蔵品により、西洋芸術の価値観を大きく揺るがしたマルセル・デュシャンの創作の軌跡を追い、「日本美術」と対置した展覧会です。もともと西洋とは異なった社会環境の中で作られた日本の美術の意味や価値観を浮かび上がらせて、日本の美の楽しみ方を新たに提案します。

開催概要

会 期
2018年10月2日(火)〜12月9日(日)

会 場
東京国立博物館(上野公園) 
平成館 特別展示室 第1室・第2室

開館時間
9:30〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、金曜・土曜、10月31日(水)、11月1日(木)は21:00まで開館)

休館日
月曜日(ただし10月8日(月・祝)は開館)、10月9日(火)

観覧料金
一般1200円(1000円/900円)、大学生900円(700円/600円)、高校生700円(500円/400円)
中学生以下無料
*( )内は前売り/20名以上の団体料金                   

交 通
JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分

主 催
東京国立博物館、フィラデルフィア美術館

特別協力
キヤノン株式会社

協 力
日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社、ミネベアミツミ株式会社

後 援
J-WAVE、TBSラジオ

カタログ・音声プログラムアプリ 展覧会カタログ(第1部:日本語版/英語版 各3000円、第2部:1500円)は、平成館会場内、およびミュージアムショップにて販売しています。
※不良本に関するお詫びとお知らせ

スマートフォン専用 音声プログラムアプリ(日本語のみ)をダウンロードしてご利用いただけます。(ダウンロードと一部のコンテンツは無料)

お問合せ
03-5777-8600 (ハローダイヤル)

展覧会公式サイト
http://www.duchamp2018.jp/
展覧会公式サイトは会期終了時をもって終了いたしました。
                  


1/3(水)〜1/6(日)おせちの残りがちらほらと。品数多目でうれしい食卓。
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2015年10月発売の実話エッセイ。アトピーって痒いだけの病気じゃないんです。

アトピーの夫と暮らしています



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◇見に行きたい展覧会メモ◇ →展覧会記録■

◆東京◆
民藝 MINGEI -Another Kind of Art展
2018年11月2日(金)〜2019年2月24日(日) 21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp/program/mingei/

岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟
2019年1月26日(土)〜4月7日(日) 東京都庭園美術館
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/190126-0407_okanoue.html

テーマ:ユーモア
2019年3月15日 (金) - 2019年6月30日 (日) 21_21 DESIGN SIGHT

クマのプーさん展
2019年2月9日(土)〜4月14日(日) Bunkamura ザ・ミュージアム
2019年4月27日(土)〜6月30日(日)あべのハルカス美術館
https://wp2019.jp/

ヒグチユウコ展 CIRCUS(サーカス)
2019年1月19日(土)〜3月31日(日)世田谷文学館
ほか、全国巡回予定。
https://higuchiyuko-circus.jp/

バスキア展
2019年9月21日(土)〜11月17日(日)森アーツセンターギャラリー

◆名古屋◆
日本・スウェーデン外交樹立150周年記念
長くつ下のピッピの世界展 〜リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち〜
2019年4月27日(土)〜6月16日(日)松坂屋美術館

クリムト展 ウィーンと日本1900
2019年7月23日(火)〜10月14日(月・祝)豊田市美術館
https://klimt2019.jp/

ムーミン展
2019年12月7日〜2020年1月末 松坂屋美術館

サラ・ベルナールの世界展
2018年11月23日(金・祝)〜2019年3月3日(日)堺 アルフォンス・ミュシャ館
2020年1月頃まで、全国巡回予定。
https://www.sunm.co.jp/sarah/

◆大阪◆
荒木飛呂彦原画展 JOJO ―冒険の波紋―
2018年11月25日(日)〜2019年1月14日(月)大阪文化館・天保山(海遊館となり)
http://jojoex-2018.com/

MOE40th Anniversary 島田ゆか・酒井駒子・ヒグチユウコ・ヨシタケシンスケ・なかやみわ5人展
2018年12月19日(水)〜2019年1月7日(月)[予定]阪急うめだ本店 
http://www.hankyu-dept.co.jp/honten/h/gallery_moe/

不思議の国のアリス展
2019年3月16日(土)〜5月26日(日)兵庫県立美術館
http://www.alice2019-20.jp/
名古屋は6番目に巡回予定。


                  

第 1 部 マルセル・デュシャン没後50年記念 「デュシャン 人と作品」

第1部は、フィラデルフィア美術館が企画・監修、アジアの3会場で巡回開催する「デュシャン 人と作品」(The Essential Duchamp)展です。「現代美術の父」と称されるマルセル・デュシャン(1887-1968)の作品および関連文献資料、写真などにより、デュシャンの人生と60年以上にわたる芸術活動を時系列でたどります。 展覧会を通して語られるのは、彼の人生そのものです。フランスおよび米国での彼の生涯においてカギとなる場面や重要な活動、また人間関係を概観、彼の作品や現代美術における重要性を紹介するとともに、彼の多様な人となり、さらに、芸術と生活の垣根をなくそうとするさまざまな試みを紹介します。展示作品は、1912年ニューヨークで発表、デュシャンを一躍有名にした《階段を降りる裸体 No. 2》をはじめとする絵画、便器を「アート」にした《泉》を含むレディメイド、映像、写真や、豊富な関連の文献・写真資料など、フィラデルフィア美術館が誇る世界有数のデュシャン・コレクションが一堂に会します。 生涯を通じてデュシャンは「決して繰り返さない」「同じことをしない」よう、常に新しい表現方法を模索し続けました。一方、その根底に流れるコンセプトや表現モチーフは一貫しています。このある種の矛盾と、それぞれの時期の彼の制作物・行為がつながっていることを、作品と資料で明らかにしてゆきます。

The Essential Duchamp was organized by the Philadelphia Museum of Art.
第 1 章 画家としてのデュシャン
はじめに、1902年から1912年までの間の「画家」としてのデュシャンの事績を追います。1902年に絵画制作を始めた後、デュシャンは印象主義から象徴主義、そしてフォヴィスムにいたるまで、さまざまな前衛的な様式に実験的に取り組みました。彼が15歳のときに描いた《ブランヴィルの教会》(1902)から、キュビスムに対する独特な取り組みによりデュシャンの名を広く知らしめることになった《階段を降りる裸体 No. 2》(1912)、その後いわゆる「画家」としての最後の作品《花嫁》(1912)まで、油彩画を中心に彼の幼少期の写真、生家や故郷の風景、家族の肖像写真をともに展示、「画家」デュシャンを紹介します。


階段を降りる裸体 No. 2
マルセル・デュシャン
1912
Philadelphia Museum of Art.
The Louise and Walter Arensberg Collection, 1950
裸体が階段を降りる動きを表した作品で、1913年に発表され大スキャンダルとなりました。
第 2 章 「芸術」でないような作品をつくることができようか
この章では、通常の「絵画」制作を止めたデュシャンがその後どのように進んだか、1912年から1917年までの活動をたどります。この時期デュシャンは、伝統的に理解されていた絵画の枠を押し広げ、そこから飛び出しました。彼の最も重要な傑作の一つ、《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称《大ガラス》)(1915-23)を構想したのはこの時期で、その制作に取り掛かったのは、彼がニューヨークへ移住した後です。
また、いわゆる「レディメイド」*と呼ばれる一連の作品の制作をはじめたのもこの時期でした。「レディメイド」は、ある機能をもった物品を本来の日常的な用途から切り離し、「作る」という概念に相対するものとして、「芸術作品」として「意味づける」ことでした。このセクションでは、フィラデルフィアにある《大ガラス》*の原品を写真で紹介するとともに、東京大学駒場博物館所蔵の《大ガラス》複製(東京版)を展示、デュシャンの制作意図と作品の意味を考えます。

*レディメイド
デュシャンは1913年以来12のレディメイド作品を制作していますが、フィラデルフィア美術館はそのうち6点を所有しています。今回は、その中から《自転車の車輪》、《瓶乾燥器》、《泉》の3点が出品されます。
*大ガラス
(展示は複製東京版、1980 [原品マルセル・デュシャン作、1915-1923]監修:瀧口修造、東野芳明 東京大学駒場博物館蔵)
この作品は、デュシャンが1915年から23年の間取り組み、未完のまま放置されていました。1926年ブルックリン美術館で初めて展示された後、ガラス部分にひび割れが入ってしまいました。デュシャンはこれを修理し、ひび割れを作品の一部として受け入れました。

自転車の車輪
マルセル・デュシャン
1913/1964
Philadelphia Museum of Art.
Gift of Galleria Schwarz, 1964-175-1
1913年最初の「レディメイド」の構築物として自転車の車輪が選ばれました。デュシャンは、「車輪を回すのは落ち着くし、いい気晴らしになる。」と語っています。
第 3 章 ローズ・セラヴィ
このセクションでは、1920年代および1930年代のパリ滞在、そして第二次世界大戦中に亡命者として過ごしたニューヨークでのデュシャンを取り上げます。
1921年、彼は職業を芸術からチェスへ転換しようといい始め、プロのチェス・プレイヤーであるかのようにチェスへと没頭しました。また、1920年代には自らの分身として「ローズ・セラヴィ」と名付けた女性に扮し、この人格のもと、ダジャレや語呂遊びなどの言葉の実験を試み、新たな制作に取り組みました。また、遠近法や視覚に関する長期間の研究の蓄積に基づいた、機械的な仕掛けに取り組んだのもこの時期です。
一方、デュシャンは、ニューヨークでの反芸術活動「ダダ」と活発に交流していました。こうした活動・交流は、フィラデルフィア生まれの写真家で、デュシャンがたびたび共作した、「ダダ」の中心人物の一人であるマン・レイ(1890 -1976)の協力を得て1926年に制作した前衛的な短編映画『アネミック・シネマ』に結実します。
1930年代半ば、デュシャンは自分自身の作品を複製というかたちで再考することに興味をもち、《トランクの中の箱》(1935-41)としても知られる作品のミニチュアからなる携帯用の美術館が生み出されました。
1940年代には、デュシャンの存在が再び美術界に戻ってきます。彼は、若い芸術家を紹介する展覧会の企画者となり、芸術家としてではなく、企画者あるいはキュレーターという裏方として活躍、有名になっていきます。いわゆる芸術家としてではなく芸術活動に携わること自体により、芸術あるいは芸術家とは何か、という垣根を打ち破っていくのです。


マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの中の箱)
1935-1941, 1963-1965 (中身); Series F, 1966 edition
Philadelphia Museum of Art.
過去の自身の作品をミニチュアにして革製トランクに入れたもの。
第 4 章 《遺作》 欲望の女
最後のセクションでは、デュシャンが芸術の世界そして広く文化人として伝説的な地位を獲得した最後の20年についてひも解きます。《与えられたとせよ 1. 落ちる水 2. 照明用ガス》 (通称《遺作》)は、デュシャンとフィラデルフィア美術館との関係を大変よく示す作品です。この作品は、デュシャンがフィラデルフィア美術館内の、自身による《大ガラス》が設置してあるすぐ近くの空間に設置することを想定して制作していたもので、彼の最後の作品となりました。彼は20年以上誰にも言わず、秘密でこの作品を部分ごとに制作していました。死後、この作品の制作について記した彼のメモが見つかり、その制作していたすべてのパーツをフィラデルフィアに移送、組み立てたのが、現在同館に常設されている《遺作》です。この作品のいくつかのモチーフは《大ガラス》と共通するものであり、彼は《遺作》が常に大ガラスと近くにあることを強く望んでいました。
このセクションでは、《遺作》を映像で紹介するとともに、制作に至るまでの彼のアイデアノートやメモ類、さらに《遺作》の一部となったオブジェや展覧会の写真など、彼の最後の作品の制作状況を生々しく伝える資料を展示します。


《泉》のレプリカの横に座るデュシャン
撮影者不明
1965年
Philadelphia Museum of Art, Library and Archives: Gift of Jacqueline, Paul and Peter Matisse in memory of their mother Alexina Duchamp


《遺作》のための扉のわきに立つティニー・デュシャン、ラ・ビスバル・デンポルダまたはその付近にて
1960年代初頭
Philadelphia Museum of Art. Gift of Jacqueline, Paul and Peter Matisse in memory of their mother Alexina Duchamp
フィラデルフィア美術館のデュシャン・コレクションについて
フィラデルフィア美術館は、デュシャンの絵画、彫刻、版画など200件以上の作品を所蔵しています。このコレクションの核となっているのはルイーズ&ウォルター・アレンズバーグ夫妻からの寄贈品です。デュシャンはアレンズバーグ夫妻の美術品アドバイザーを務め、夫妻が1950年にそのコレクションを美術館に預けるよう導きました。その後まもなく、フィラデルフィア美術館は別の重要な収集家、キャサリン・S・ドライヤー氏から《大ガラス》 の寄贈を受けました。一方、《遺作》は1968年のデュシャンの死後コレクションに加わり、1969年以来、デュシャンの遺志に基づき、専用の場所に設置されています。
作品だけでなく、フィラデルフィア美術館が所蔵するデュシャン関連のアーカイブおよび参考資料は、他のどのコレクションよりも広範囲にわたるものです。個人的な書類や写真のほか、デュシャンの未亡人アレクシーナ(ティニー)・デュシャンがまとめた制作準備資料、また、フィラデルフィア美術館の職員が収集した大変貴重かつ特色ある研究資料が多くあります。 さらに、アレンズバーグ・アーカイヴと呼ばれる同夫妻のコレクションに関連する記録や、書簡、さらにデュシャンの仲間の芸術家や知識人と夫妻との交流を記録した、夫妻の蔵書すべての寄贈を受けています。
これら全体として、美術館の図書館・アーカイヴでは42,500 件以上のデュシャン関連資料を所蔵、作品とあわせて世界有数のデュシャン・コレクションです。

Philadelphia Museum of Art, East Entrance.
Photo: Philadelphia Museum of Art.
第 2 部 デュシャンの向こうに日本がみえる。
第 1 章 400年前のレディメイド
「竹一重切花入」は、千利休(せんのりきゅう)が天正18年の小田原攻めに同道し、伊豆韮山(にらやま)の竹をもって作ったといわれた作品をもとに作られたものです。真竹の二節を残し、一重の切れ込みを入れた簡潔な作です。利休は陶工など職人が精巧に作った器や花器ではなく、傍らにあった竹を花入に用いて絶大な価値を持たせました。これは、究極の日常品(レディメイド)です。

竹一重切花入 銘 園城寺(おんじょうじ)
伝千利休作
安土桃山時代・天正18年(1590)
東京国立博物館蔵

黒楽茶碗 銘 むかし咄(ばなし)
長次郎 
安土桃山時代・16世紀
東京国立博物館蔵
第 2 章 日本のリアリズム
古来、日本の絵画は、記号化された形象によって事物を表現していました。つまり視覚的なリアリズムが、ほとんど求められていませんでしたが、江戸時代の浮世絵師・写楽は伝統的な絵の描き方を学ばなかったため、女形を演じる役者を男として描くなど、歌舞伎役者を見たままに描こう(リアリズム)として非難されたのでした。

重要文化財
三代目大谷鬼治の江戸兵衛
東洲斎写楽筆
江戸時代・寛政6年(1794)
東京国立博物館蔵 
[展示期間:2018年10月2日(火)〜28日(日)]

重要文化財
婦人相學十躰・浮気の相
喜多川歌麿筆
江戸時代・18世紀
東京国立博物館蔵
[展示期間:2018年10月30日(火)〜11月18日(日)]

重要文化財
四代目岩井半四郎の重の井
東洲斎写楽筆 
江戸時代・寛政6年(1794)
東京国立博物館蔵
[展示期間:2018年11月20日(火)〜12月9日(日)]
第 3 章 日本の時間の進み方
日本の絵巻物は、独自の発展をとげました。特に「異時同図(いじどうず)」という描写方法は、同じ風景や建物のなかに、同一人物が何度も登場して、時間や物語の経過をあらわします。絵巻物をひも解き、開きながら絵を鑑賞することで、絵巻を見る人は、登場人物たちが生き生きと動き出すように感じるのです。絵巻物は、まさにアニメーションの祖先ともいえるでしょう。

国宝 平治物語絵巻 六波羅行幸巻(部分)
鎌倉時代・13世紀
東京国立博物館蔵 
[展示期間:2018年10月2日(火)〜28日(日)]
赤い着衣の人が何度も描かれ、時間の経過を示しています。
第 4 章 オリジナルとコピー
作者が独自に考え抜いて作り上げた、世界に唯一無二の「一点」にこそ、芸術としての価値があるものと考えられています。しかし近世以前の日本では前例に則り、まさに「模倣(コピー)」が当然のように行われていました。400年の歴史を誇り、日本の画壇に君臨した狩野(かのう)派の絵師たちは、連綿と描き続けられた手本をもとに多くの絵画を制作していたのです。

龍図
俵屋宗達筆 
江戸時代・17世紀
東京国立博物館蔵

龍図
狩野探幽筆 
江戸時代・17世紀
東京国立博物館蔵
[展示期間:2018年10月30日(火)〜12月9日(日)]

国宝 舟橋蒔絵硯箱
本阿弥光悦作
江戸時代・17世紀
東京国立博物館蔵


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