小説「魔王」と「モダンタイムス」(伊坂幸太郎)

今までに読んだ伊坂さんの作品で一番怖かったのが「魔王」。
目に見えない大きな力に翻弄される主人公の姿を描いている。
メッセージ性が強い作品で、いつもの伊坂作品のような爽快感には欠ける。
読んだのはもう10年近く前だ。

物語は主人公・安藤が自分が思った事を相手に喋らせることができる『腹話術』の能力に目覚めたところからはじまる。
ちょうどその頃、人を引き付ける魅力を持つ犬養舜二という、未来党の党首で国会議員が現れる。
政治に興味のない若い世代などから圧倒的な支持を集めるようになる。

でも主人公は、犬養の言動に胡散臭さを感じる。
「私を信じるな」と言いながら支持者を集める犬養は、小説で読むからこそ胡散臭いけれど
実際にこの場にいたら、日本人なんて簡単にコロッとだまされてしまいそうだ。

ドゥーチェというバーのマスターが、ただのマスターではなく、安藤が犬養に腹話術を仕掛けようとすると
その息の根を止める。。。。マジで怖い。

【概要】
著者自身が「自分の読んだことのない小説が読みたい。そんな気持ちで書きました」と語る作品。
安藤が主人公の「魔王」、その五年後の世界を描いた「呼吸」の二つの中編で構成されている。
魔王(『エソラ』vol.1 2004年12月)・呼吸(『エソラ』vol.2 2005年7月)

「魔王 JUVENILE REMIX」のタイトルで大須賀めぐみ作画で漫画化され、『週刊少年サンデー』(小学館)で
連載された。

【あらすじ】
会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに
偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていく。

著者     伊坂幸太郎
発行日    2005年10月20日
発行元    講談社
国      日本
言語     日本語
形態     上製本
ページ数   294
コード    ISBN 978-4-06-213146-9


                  


その続編というべき「モダンタイムス」は五十年後が舞台。
読んでいてもそんなに近未来作品と言う感じではないのだけど、時折、現代の私たちにとって身近な人物が
歴史上の人のように描かれていて、それでふと未来の話なのだと気づく。

しかししょっぱなからキナ臭い。
いきなり「勇気はあるか」と尋ねられ、知らない男たちに拷問を受ける主人公・渡辺拓海。
それだけでも怖い話だが、実はそんなの序の口で、どんどん巨大な恐ろしい話に巻き込まれて行く。
最初は愛人を奥さんからどうかくまうかという話だったのに、実は愛人の方こそ悪の手先で
気付けば拷問をしていた岡本と仲間になっていたという、不思議な人間関係。

今までで一番怖かった伊坂作品は「魔王」だったけれど、一番恐ろしかったのは「グラスホッパー」だった。
なぜなら「グラスホッパー」は暴力的な描写が多く、ゾッとする恐ろしさがあったから。
けれど、暴力的と言う意味ではこの作品も負けてない。とにかく拷問シーンの連続なのだ。

最初は拷問する側だった岡本が、途中でされる側に周り、脅しのためにそれが主人公に送られる。
同じ言葉を検索した五反田正臣は失踪し、再会した際には失明していた。嫌われ者の上司は自殺し、
主人公の後輩の大石倉之助は、社会的に抹殺され、友人で作家の井坂好太郎は死亡。
どれも「システムについて知ろうとすることへの警告」だった。

岡本がどうなったか気になりつつ迎えたラスト。まさかの再会を果たしてホッとした。
こんなに最初と最後で扱いの違う登場人物もいないのではないか。

途中まで「魔王」の続編とはまったく気づかず、最後の方に気づいた。
主人公が導かれて行った岩手の高原に住む、安藤詩織からの言葉がきっかけだ。
詩織の夫である潤也の親族は、早死にした人が多いとか、お兄さんにも不思議な能力があったというあたりで
あれ?「魔王」に似てるなぁと気付くという。。。

しかし、「呼吸」のあと、ふたりは本当に競馬でひと山当てて、世の中の役に立つことをしてたんだねぇ。

ドゥーチェのマスター(緒方)の登場にはすぐに気づいた。
当然ながら、ただのバーのマスターではなく、超能力を使って政治の中枢に入り込んでいたのだ、魔王の時点で。

少なくとも、今回の奇跡の英雄・永嶋丈は、悪者ではなかった。
巨大なシステムが作り上げられた時、トップに誰が立つかどうかなんてどうでもよく
ただ巨大なシステムによって動いてゆくものなのだ。
そのシステムに流されるな、と抗う人々をえがくのがこのシリーズなのだ。

「魔王」に出てきた首相の犬養にしても、何かを変えようとしたけれどできなかった。
動かすのはむしろ緒方のような人間。いや、緒方も歯車に過ぎない。

最初のうちは、主人公をプロを使って締める嫁が怪しいと思っていたのだけど、実は結構カワイイ奥さんだった。
しかし、途中どんなに拷問にあっても奥さんの顔を見ると「顔はタイプだ」とぽうっとなってしまう主人公って
アホなんちゃうかとたびたび思った。顔がよければそれでいいのか?いいのか。。。。

まぁ、美人=顔が左右対称に近い、ということで、健康の証なのだそうで
そこから「健康な子孫を残すために、男は美人を好む」のだという。
(女が筋肉や財力のある男を好むのは、子を育てるために男には力が必要だからよね)
確かに、佳代子さんは健康そう。その身体能力の高さはタダモノではない。マジでこの人、何者?(笑)

あと、作中作というべき、井坂好太郎の小説が興味深かった。いつもの井坂らしくないとされる文体が、確かに
説明通りに読めるんだけど、それをこんな風に明確に書き分けられるって、当たり前だけどやっぱりすごい。
(こんな感想持つなんて私だけかしらん)

その井坂好太郎の言葉がとても印象的だった。「人生は要約できない」

【概要】
2008年に第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞を受賞した『ゴールデンスランバー』の制作時期とほぼ同時期に
講談社の漫画誌『週刊モーニング』2007年18号 - 2008年26号連載。
『魔王』の続編として50年後を舞台とする。作品中に『魔王』のキャラクターの安藤潤也などが登場。
キャッチフレーズは「検索から、監視が始まる。」

【あらすじ】
魔王の時代を現代とすると、今から50年後の世界。

「勇気はあるか?」29歳の会社員となった渡辺拓海の前で、見知らぬ男がそう言ってきた。
「実家に」と言いかけたが、言葉を止めた。拷問を受けた翌日、拓海は失踪した五反田正臣の代わりに
「ゴッシュ」という会社から依頼されたシステム改良の仕事を引き継ぐことになる。

恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。
けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。
そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。
彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。

著者     伊坂幸太郎
発行日    2008年10月
発行元    講談社
国      日本
言語     日本語
形態     上製本
ページ数   540


                  


2015年10月発売の実話エッセイ。アトピーって痒いだけの病気じゃないんです。

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◇見に行きたい展覧会メモ◇ →展覧会記録■

◆東京◆
塩田千春展:魂がふるえる
2019.6.20(木)〜 10.27(日)会期中無休 森美術館

バスキア展
2019年9月21日(土)〜11月17日(日)森アーツセンターギャラリー

ミナ ペルホネン/皆川明 つづく
2019年11月16日(土)〜2020年02月16日(日)東京都現代美術館

みんなのレオ・レオーニ展
2019年7月13日(土)〜9月29日(日)東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

◆名古屋◆
クリムト展 ウィーンと日本1900
2019年7月23日(火)〜10月14日(月・祝)豊田市美術館
https://klimt2019.jp/

ムーミン展
2019年12月7日〜2020年1月末 松坂屋美術館

サラ・ベルナールの世界展
2018年11月23日(金・祝)〜2019年3月3日(日)堺 アルフォンス・ミュシャ館
2020年1月頃まで、全国巡回予定。
https://www.sunm.co.jp/sarah/

木梨憲武展 Timing‐瞬間の光り‐
2019年9月13日(金)〜10月20日(日)松坂屋美術館

不思議の国のアリス展
2020年4月18日(土)−6月14日(日)名古屋市内の美術館(未定)
http://www.alice2019-20.jp/

◆大阪◆
ルート・ブリュック 蝶の軌跡
2019年9月7日(土)〜10月20日(日)伊丹市立美術館
https://rutbryk.jp/

ショーン・タンの世界展
2019年9月21日(土)〜10月14日(月・祝)美術館「えき」KYOTO
http://www.artkarte.art/shauntan/

萩尾望都 ポーの一族展
2019年12月4日(水)〜12月16日(月) 阪急うめだ本店
https://www.asahi.com/event/poeten/




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