映画&小説「グラスホッパー」

190907glasshopper_book.jpg190907glasshopper_cinema.jpgもともと2008〜2009年頃に小説を読んだんだけど、どうやら感想文は残していないらしい。
オット宮田と知り合ったばかりの頃、彼が待ち合わせ場所で読んでいた伊坂幸太郎。
興味を持って、借りて読んで私もはまった。
「オーデュボンの祈り」「ラッシュライフ」「死神の精度」どれも名作。
「アヒルと鴨のコインロッカー」は、面白すぎて徹夜して読んでしまったほど。
「週末のフール」も好きな作品だ。

伊坂幸太郎の魅力はもちろんたくさんあるけれど
ひとつだけ挙げるなら「驚異の伏線回収能力」だろう。
その真骨頂を味わえるのが「ラッシュライフ」かなと個人的には思う。

伊坂作品は、文体のソフトな割にハードボイルドで、
残酷に人が殺されたりするのも特徴の一つではあるんだけど、
その中でも特にその傾向が強いのがこの「グラスホッパー」

登場人物は、主人公の「鈴木」以外は皆コードネーム的な名前で呼ばれる。
鈴木と並ぶ語り部の”自殺屋”「鯨」、”ナイフ遣い”「蝉」と、
鈴木が潜り込む組織の女性幹部「比与子」。
鈴木の復讐の相手・寺原Jr.を殺害する”押し屋”「槿(あさがお)」と
その妻の「すみれ」、鯨が出入りする店の年齢不詳の店主「桃」、
偶然比与子に拉致されたバカップルと見せかけて、物語の最後に正体が
明らかになる「スズメバチ」など。

それぞれに人生や哲学を背負わせて、作中でちょいちょい語らせるのも
伊坂文学の魅力のひとつである。

小説を読んだ時に、一番印象に残ったのは「鯨」だった。
そしてゾッとしたのは「スズメバチ」のふたり。
「蝉」にはあまりいい印象がなく、「鈴木」に至ってはあまり記憶が無い。
正直、小説版では、さほど個々の登場人物に魅力を感じなかった。
「ラッシュライフ」での黒沢に匹敵する強烈な魅力をも持つ人物は、
私にはこの小説の中には見つけられなかったのだ。

それでも、鮮やかな手法で伏線を回収していく伊坂作品に最後は持って行かれた。さすがだ。

伊坂作品は映像化には向かない。
なぜなら、伊坂作品のいちばんの魅力である「伏線」は、「文字」表現形式だからこそ成り立つものだから。

たとえば「アヒルと鴨」は、物語の一番重要な「どんでん返し」が、文字だからこそ書けるもので
映画化されたと知った時「あれを一体どうやって?」と思ったものだ。
実際、原作を知っていても楽しめるようになっていて、さすがだと思った。

さて、「グラスホッパー」はどうか。
あんまり評判がよろしくないとも言うけれど、それは「伊坂らしさ」を期待し過ぎるからなんじゃないか。

色々な記事を流し読みしていたら、この映画は
「伊坂作品から伊坂幸太郎らしさを消して、ロマンスとアクションを加えたもの」
という一文が印象に残った。
これはもう、小説とは別物だと思って見るのが正しい映画だと思う。


(この先ネタバレあり)


確かに、伏線らしきものはほとんどない。
唯一、最初の方に、鈴木の元の教え子だというバカっぽい女の子が拉致されるくだりがあり
それが最終的には「槿」や「すみれ」の仲間で、寺原にとどめを刺すことになる。(メッシュの女)
原作では、「スズメバチ」に当たる役回りである。

また、ロマンスに関する伏線はいくつかある。
鈴木の婚約者「百合子」が冒頭に子供を助けるが、その子供が百合子の死体の近くに落ちていた指輪を持ち去る。
その子は「槿」と「すみれ」の子供として登場し、最後に鈴木に指輪を返しにやってくる。

原作では、種明かしをするのは槿だが、映画版では、槿は不気味な存在感だけを残して去り
鈴木に全てを明かすのは、すみれの役割である。

また、原作では、鈴木も鯨も蝉も”押し屋”を追うという設定だが、映画版では鈴木だけが槿を追う。

原作では殺し合うだけの関係であった鯨と蝉が、映画版では死後に奇妙な友情が芽生え、蜆の味噌汁を飲みに行く。

鯨を演じる浅野忠信の存在感は半端ない。原作には登場しない父親役の宇崎竜童の気の弱い感じもいい。
でも何よりよかったのは、蝉役の山田涼介の狂気を含んだ目。
ナイフ遣いのキレッキレな感じや、最後に耳を切るシーンなど、素晴らしかった。
蝉に関しては、原作より魅力を感じた。蝉の相棒の岩西もよかった。

そして、ゾッとしたのは、吉岡秀隆演じる槿。めっちゃ怖い。
彼は悪ではなく、最終的には鈴木の味方のはずなんだけど、マジで怖い。
まるでカピバラみたいに常に横目で伺っている。すべてお見通しなのだ。
ほとんどしゃべらない彼が唯一雄弁に語るのが「バッタ」の話。

自然界では緑色をしているバッタは、密集している環境では、黒っぽい色の「群衆相」に変わり、凶暴化するという。
人間も同じ。そうして凶暴化したバッタも人間も、一掃されなければならない。。。

「グラスホッパー」とは、バッタのことなんですね。

この映画を見て、小説以上に、それぞれの人生に背負うものを想像してしまった。
殺し屋となった鯨や蝉が背負うものもそうだけど、特に槿やすみれについては語られていないだけに余計に。
もしかすると彼らも過去に、大切な人を無残に殺されたりした過去を持つのだろうか。

そして最後に、主人公鈴木。生田斗真って、本当にすごく整った顔した「イケメン」ですよね。
でもその彼が、この映画ではまったく「カッコ良くない」。「イケメン」の匂いが全然しない。

百合子を失うまでは、人生にさほど深刻な悩みや挫折などとは無縁だったことを想像させるその「人の良さ」は
殺伐とした本作の一服の清涼剤だ。

生徒だった記憶もない「メッシュの女」を救うためにあえて人質として寺西の元に向かうシーンは
情けないけどカッコイイ。そして子供を助けて死んだ百合子をあざ笑う寺西に怒りをぶちまけるシーンも。

物語の最初の方で、婚約者に死なれ、荒れ果てた部屋でコンビニの麺をすする彼の後ろをGが行くシーンがあり
最後の方にすみれから「あなたに復讐なんて似合わないわ。虫も殺せない顔してるんですもん」と笑われる。

そのあとに百合子との想い出のシーン。料理を作ってくれた百合子がキッチンでGを見つけて外に逃がす。
怖がるだけの鈴木を「Gもやっつけられないの?」と笑う百合子。
そのとき百合子が冷凍した料理を解凍するところでオシマイ。って、2年経ってるんだけど。。。大丈夫か??
グラスホッパー
監督   瀧本智行
脚本   青島武
原作   伊坂幸太郎「グラスホッパー」
製作   水上繁雄 杉崎隆行 椿宜和
出演者  
鈴木 - 生田斗真
鯨 - 浅野忠信
蝉 - 山田涼介
百合子(鈴木の婚約者) - 波瑠
すみれ - 麻生久美子
比与子 - 菜々緒
槿(あさがお) - 吉岡秀隆 ※槿は、本来はアオイ科のムクゲのこと。
岩西 - 村上淳
鯨の父 - 宇崎竜童
寺原会長 - 石橋蓮司
寺原Jr - 金児憲史
メッシュの女 - 佐津川愛美
桃 - 山崎ハコ
音楽   稲本響
主題歌  YUKI「tonight」
撮影   阪本善尚
編集   高橋信之
制作会社 角川大映スタジオ
製作会社 「グラスホッパー」製作委員会
配給   KADOKAWA 松竹
公開 日本 2015年11月7日
上映時間 119分
製作国  日本
言語   日本語
興行収入 10.2億円[1]
                  


食べたものの記録:8/16(金)〜8/18(日)
いわゆる「夏休み」も終わり。17日は8月前半で唯一電車に乗った日。びっくりだね。
190816_190818_IMG_7729.JPG


                  


2015年10月発売の実話エッセイ。アトピーって痒いだけの病気じゃないんです。

アトピーの夫と暮らしています



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◇見に行きたい展覧会メモ◇ →展覧会記録■

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◆名古屋◆
クリムト展 ウィーンと日本1900
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ムーミン展
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サラ・ベルナールの世界展
2018年11月23日(金・祝)〜2019年3月3日(日)堺 アルフォンス・ミュシャ館
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https://www.sunm.co.jp/sarah/

木梨憲武展 Timing‐瞬間の光り‐
2019年9月13日(金)〜10月20日(日)松坂屋美術館

不思議の国のアリス展
2020年4月18日(土)−6月14日(日)名古屋市内の美術館(未定)
http://www.alice2019-20.jp/

◆大阪◆
ルート・ブリュック 蝶の軌跡
2019年9月7日(土)〜10月20日(日)伊丹市立美術館
https://rutbryk.jp/

ショーン・タンの世界展
2019年9月21日(土)〜10月14日(月・祝)美術館「えき」KYOTO
http://www.artkarte.art/shauntan/

萩尾望都 ポーの一族展
2019年12月4日(水)〜12月16日(月) 阪急うめだ本店
https://www.asahi.com/event/poeten/




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