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劇作家のジェームズ・バリ(ジョニー・ディップ)は新作「リトル・メアリー」の初日を迎えるが、その出来は芳しくなく、興行主チャールズ(ダスティン・ホフマン)や友人コナン・ドイル(イアン・ハート)からも失敗作といわれる。翌日の新聞には案の定、評論家達の酷評が掲載されていた。失意のジェームズは気分転換のためにもと、日課である朝の散歩へと公園へ出かける。そこで偶然知り合ったのが、若く美しい未亡人シルヴィア(ケイト・ウィンスレット)とその4人の息子達だった。この家族、特に3男のピーターとの交流の中で、「ピーターパン」の物語が作られてゆく。パパさまのところより、引用させていただきました。多謝。
ジョニー・デップは、いい俳優さんですねぇ。まさにはまり役。ケイト・ウィンスレットは、「タイタニック」のイメージがついてしまうのを嫌って、あれ以降は、わざと小品を選んで出演していたと言うことでしたが、この作品、とてもよかったです。ローズもそうでしたが、このシルヴィアも、とても意志の強い女性。よき母親で、バリを愛しながらも、依存しないところが素敵でした。シルヴィアの4人の息子の一人、ピーターは、父親の死のショックで、心を閉ざしてしまっているのですが、この男の子も名演技でした。彼はその後、デップの推薦で、次の映画でも共演することになったそうですね。
わたしがこの映画を見ていて、ずっと頭にあったのは、「ピーターパン・シンドローム」と言う言葉。ご存知なように、「永遠の少年」ピーターパンを夢見る、大人になりきれない男性のことをさすのですが、そのきっかけとなったのが、必死に大人になろうとする少年との出会いであったとは。
あらすじを追ってしまうと、バリと奥さんとシルヴィアとの三角関係とかが、本筋になりがちで、ちょっと気がそがれる部分もあるのですが、場面ごとの映像の美しさ、バリや少年たちとの心のふれあいや、まさに珠玉の言葉たちに、心が震えます。
一番上の男の子が、バリに向かって「あなたと会うことで、母が傷つくんじゃないかと思う」と言ったときに「君は、たった30秒で大人になった」とバリが言うシーンは、忘れられません。
またこの作品には、悪人は一人も出てきません。バリの作品がどんなに評判を落としても、「きみならできる」と彼を信じてくれる仲間や俳優さんたちの存在が、とてもコミカルに描かれていて、笑いの後に、ほろっと来るような、そんなシーンがいっぱいです。
奥さんとの関係も、俗っぽい社交界にしか興味のない彼女に、純粋なバリは、ついていけなくなった、ということなのでしょうが、それにしても、別れのシーンは、せつなかったです。夫婦って、やっぱり、一言では語れないもの。いろいろなことが、心をよぎる様子が伝わってきました。
バリがシルヴィアたちに近づくことに強固に反対するピーターたちの祖母も、自分の娘を思えばこそで、終盤で、病床のシルヴィアを見舞うために、ディヴィス家の一階でピーターパンを演じてみせたときに、「妖精を信じる人は、手を叩いて!」というピーターパンの問いかけに、祖母が誰よりも一番に大きく手を叩くシーンも、笑いを取りつつ、感動的でした。
そして、シルヴィアをネバーランドに連れて行ったところで、次には葬儀のシーン。そして、ベンチでのラストシーン。もう、涙なしでは、見られません。信じれば、きっと誰でもネバーランドに行くことができる。それは、大人でも子供でも、みんな同じなんだ。
そうそう、忘れてはいけない。「ピーターパン」の初演が、大成功をおさめ、パーティーの席で、バリに「どうだった?ピーター」と声をかけられ、「この子がピーターパンなのね!」と注目を浴びたピーターが「ピーターパンはこの人だよ」と、バリを指差すところは、鳥肌が立ちそうでした。そう、ピーターパンは、いつまでも少年の心を失わないバリ自身。そのことを、ピーターはちゃんとわかってるんですね〜〜〜。すごい。
きっと、この映画を好きな人は、いつまでも少年、少女の心を忘れない、大人になりきれない人なのかもしれません。
今年のアカデミー賞は、小粒の作品が多かったそうですが、この作品も、ノミネートされた割には、興行成績が伸び悩んでいるとか。やっぱりみんな、大作が好きなのね。わたしはといえば、こういう作品が、一番好きなんだと思います。それなのに、パンフレットが売り切れで買えなかったのが、すごく残念でした。パンフレットには、彼らのその後が書かれていて、とても興味深いそうで、ものすごく読みたいです〜〜〜。悔しいよぉ。音楽もさすが、とてもよかったですね(^^)
ところで、「ピーターパン・シンドローム」に対する言葉として、「シンデレラ・コンプレックス」と言う言葉がありますが、こちらは、いつまでも白馬に乗った王子様を待っている女性をさすもので、ピーターパンに比べると、何だか夢がないなぁ、と感じてしまいます。ピーターを言う少年をモデルに描いた「ピーターパン」と言う物語に対して、実在の少女をモデルに書かれた物語として「不思議の国のアリス」を思い出します。そして、あの物語も、アリスをいつまでも少女のままでとどめておこうとするキャロルの願望が描かれた物であったそうです。「アリス」は、わたしにとって、とても思い入れの深い物語なので、また機会があれば、いろいろ書いてみたいと思っています。