薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木/江國 香織


2000 集英社江國 香織

一年くらい前に読んだ本。『東京タワー』の後に。タイトルと装丁にひかれてしまったのだった。


こういうのを群像劇というのだろうか。最初は無関係に物語の進んで行った人物たちが、そのうち意外な接点でつながれてゆく。花屋を訪れる優雅な主婦と、同じく花屋に子連れで訪れる主婦の夫とは不倫をし、優雅な主婦の友人の夫と、子連れの主婦と顔見知りのモデルの女性は不倫をしている。

出て来る女たちはみな愚かだと思う。花屋の女主人は、長年連れ添った夫と一方的に離婚しておいて、一人暮らす事の孤独感に押しつぶされそうになる。花屋の女主人と優雅な主婦の共通の友人で、キャリアウーマンの女性は、やたらホームパーティーを開き、そこに呼んだ若い女の子と夫が不倫してしまう。キャリアウーマンなんだから、家事など手を抜けばいいのだ。何もかも完璧な女って息苦しい。そんなこととは関係なく、夫はアホな浮気性なんだけど。で、けっこう本気だったモデルの女の子は、勝手に彼との間に子どもを作り、一人で産むと言って去って行き、全然好みじゃない妻の会社の女の子と出来心で関係を持ったために、妻にモデルの女の子との関係までばらされてしまい、妻に三行半を突きつけられておたおたする。アホだ。この夫婦は救いようのないアホ。

そんな中、優雅な主婦だけは、夫にたっぷり愛情を受けながらも、年下の妻子持ちを翻弄し、罪の意識もなく不倫を楽しむ。この人は『東京タワー』の詩史と同じタイプだと思うが、一番嫌いなタイプだ。素敵な恋をしている人が、一組くらい出てくる、救いのある話にして欲しかった。

◆追記(2008.5.15)
・・・とここで、ラストの方で、新しい恋の芽生えが描かれていたのを私は見逃していたかも。優雅な主婦の過去の恋人で、優雅な主婦の妹の長年の想い人である医者と優雅な主婦の妹の会社の先輩で酸いも甘いも嗅ぎ分けた大人な女性。(↑ややこしいな)

もしかしたら、江國香織自身も、彼らを滑稽だと思っている桜子に、自分自身を投影しているのかもしれない。広尾に住む絵に描いたようなセレブたちの空虚な生活。若さ故に無鉄砲な桜子もまた愚かな部分もあるけれど、若いうちには誰もが通り過ぎるひとつの通過点なのだと思う。



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