【展覧会】特別展「和田誠の仕事」

101108_1851510.jpg奥様の平野レミさんのTwitterのつぶやきがリツィートされて、私自身知るところとなったこの展示、行かずにはおられるかと言う感じで行ってまいりました。

私はイラストレーターをしているのですが、和田さんは雲の上の存在。実はパレットクラブの10期生だったりするので、和田さんの授業も受けました。授業後に和田さんと記念撮影した写真もうちにあります。

2006年当時、パレットクラブの受講を通じて感じたのが、多くの先生方の語る
「アートとイラストレーションとの境界」
そして
「画家とイラストレーターとの違い」
について。

これ、多くの先生方がテーマにして語っておられましたが、はっきりとこうだという答えはいまだ得られていないのだそうです。
んでも、私なりに一番しっくりと来たのがこの考え方。


              


「アートは、自分の好きに描いた絵で、画家はアートをパトロンに買い取ってもらう職業。
イラストレーションは、依頼があったモノを描いた絵で、イラストレーターは、イラストレーションを依頼されて描く職業。」

画家はまず絵を描く。そして画商や個人コレクターに買い取ってもらう。
イラストレーターは、まず編集者やデザイナーから依頼が来る。それから描く。
順序が逆なわけなんですね。

よく「個展はやらないのですか」と声をかけていただくのですが、実はあまり興味がないのです。たぶん私は自分は、タブロー画家ではなく、商業イラストレーターだと思っているからだと思うんです。いわさきちひろさんも、展示が嫌いで、「こんなにポスターや雑誌や書籍で絵をさらしているのに、さらに展示までやって「絵を見て見て」と言う気持ちになれない」とおっしゃっていたそうです。

ちひろさんと自分を一緒にするのはおこがましいですが、お気持ちはわかる気がします。

和田さんの展示、運がいいことに、私たちの行った11月3日は無料でした。
しかも、ちょうど解説の始まる時間に当たったので、貴重なお話をいろいろ伺うことができました。

今回の展示は、ただ和田さんのイラストレーションを展示すると言うだけでなく、和田さんの「仕事」がテーマとなっているので、その舞台裏を見ることができました。
それで、私は、これこそ「イラストレーターの仕事だな」と感じたのです。

今回は、昔和田さんが描いたポスター20数点を、再度今の和田さんが描いてみると言うステキな試みが目玉だったのですが、Youtubeにも上がっていた、和田さんのお仕事ぶりはこんな感じ。



大きなサイズの絵ではないですが、和田さんが普段されるお仕事のサイズは大体こんなモノなのでしょう。

博物館の方も「一日一枚くらいのペースでできあがってきて驚いた」とおっしゃっていましたが、コレ一枚、1時間から3時間くらいで完成しています。試行錯誤なんかしないんです。

かといって、手抜きもしない。
クジラの絵では、ほぼ完成してから、そういえばこのあたりにヒレがあったと、図鑑で調べたり、ハンフリー・ボガートの目や髪の色が何色かを、きちんと確認してから描くなど、細部まで徹底しています。

依頼されたモノを、最短の時間で最高のものに仕上げる。それが商業イラストレーターの仕事なんですね。100点だったり50点だったりむらがあるより、毎回80点のほうがいい、そんな風にも言われます。

コレが画家だったら、途中でしばらく置いてから描き直したり、本番に入る前に何度もモチーフを考えたり、習作をしたりと、すっごく時間をかけて100点を目指すのかもしれません。

いわゆる美術展で画家の絵を見ると、圧倒的に油彩が多いですが、イラストレーターで油彩を使う人は少ないです。今回和田さんも、一連の映画のイラストを、”油彩風に”アクリルで描いてます。

博物館の人が
「アクリルで油彩風に描いてるんです。なぜなら・・・」
と話してるときに思わずオットに
「油彩なんて時間がかかって仕方ないよね」
と話してたら、突然
「その通り!!」
と博物館の方に突っ込まれて、ドキッとしたんですが(笑)

油彩は時間がかかるんです。乾かないから。特に描きあげてすぐに印刷に回さなくてはいけないイラストレーションで油彩はあり得ない。だから、速乾性のアクリルがよく使われるんですね。

そのほかにも、前から、和田さんが色指定の人で、完璧だと言う話は聞いていたんですが、それも具体的に見られて楽しかったです。
色指定と言うのは、和田さんがモノクロの線画だけを描いて、どこにどの色を載せるかを、色番号で印刷所に指定することです。

今はWebで文字などに色しているをする方も多いので、ご存知の方も多いでしょうが
色はCMYKの数値で指定します。C=シアン=青 M=マジェンタ=赤 Y=イエロー=黄色 K=黒。その数値のバランスで色が決まるんですね。

しかし、今はPCのソフトを使えば、簡単にわかる色も、和田さんの頃はそんな便利なモノはありませんでした。その頃に頭の中で色を計算できた和田さんは、やっぱり天才だ!と思わずにはいられません。

そういったことを学ぶために和田さんは、印刷所でアルバイトをしていたこともあるそうです。また、映画が好きで、映画のイラストを描いて、映画館に自分の絵が飾られるのがうれしくて、すでにプロだったのに、無償で映画館のイラストを10年近く描いていたり、レストランのロゴを、数回の食事代で作ってしまったりと、こんな大御所も無償でお仕事したことが、そんなにあったんだなーと、驚いてしまいました。

とにかくとにかく、素晴らしい展覧会でした。会期終了後にしかご案内できず申し訳ないです。


              


特別展「和田誠の仕事」2010年9月11日[土]〜11月7日[日]

たばこと塩の博物館から「2010年はハイライト発売50周年です。
それにちなんで展覧会をしませんか」というお誘いがありました。
それで「あれから半世紀たつんだなあ」とちょっとしみじみしたり
「光陰矢の如し」を英訳するとTime fliesになることを思い出して「時が飛んで行く、か。
まさにそんな気分だね」と笑ったりしました。

1959年、ぼくは多摩美術大学を卒業して、デザイン会社ライトパブリシティに入社しました。
その年の終り頃、専売公社に勤めている多摩美の先輩に「ハイライトというたばこが新発売になる。
そのパッケージデザインのコンペに参加しないか」と声をかけられて、会社所属のデザイナーの一人として
応募したのが採用され、次の年にぼくのパッケージデザインによるハイライトが世に出たというわけです。
そんな縁で、ハイライト発売の次の年から三年間、ひとコマ漫画をヴィジュアルにした雑誌広告や
車内吊ポスターを手がけました。今回の展覧会では、当時モノクロで描いた広告のアイデアをもとに
二十数点をカラーで描きおろし、もうひとつ、映画に登場した喫煙シーンを十数点描きました。

喫煙には風あたりの強い時代だし、ぼくも今は吸っていませんが(かつてはハイライトを中心に
プカプカやっていました)、この際、たばことの縁を忘れないでおこうと考えたのです。
そのほか、この半世紀に手がけた仕事をいろいろ展示します。
普段はあまりお目にかけないポスターの原画も並べます。制作風景のヴィデオも撮りました。
舞台裏を人に見せない主義なのですが、今回は特例で初めての経験。
そんなあれやこれやをお楽しみいただければ・・・・と思っております。
和田 誠


特別展「和田誠の仕事」2010年9月11日[土]〜11月7日[日]

主 催 たばこと塩の博物館
会 場 たばこと塩の博物館 特別展示室
開館時間 午前10時〜午後6時
(入館締切は午後5時30分)
休館日 毎週月曜日(ただし、9月20日、10月11日は開館)、9月21日、10月12日
入館料
一般・大学生 300円 【150円】
小・中・高校生 100円 【50円】
【 】は20名以上の団体料金
※満70歳以上の方は無料(要証明書)


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