佐藤達夫さん、元人事院総裁として知られる人ですが、ボタニカルアートを愛する人としても有名でした。残された沢山の植物画などを新たに編集した、これは、佐藤さんのフローラ(植物誌)です。花を愛する男性と言うのが、あまり身近にいないせいか、この方の本を読んでいると、ますます不思議な気がしてしまうのですが・・・考えてみると、著名な植物画家はみな男性でありました。(ルドゥテ・フィッチ・・・そして牧野富太郎博士も)
この方はお忙しいお仕事の合間を縫って、野山に出かけ、本当に素晴らしい植物画を残されただけでなく、珍しい品種の標本なども数多く手がけ、その功績は本当にすごいことだと思います。植物に対する慈しみの気持ち、そして人に対しても温かなお気持ちで接してこられたのを、この文章の中から読み取ることができます。交流のあった牧野富太郎博士は、いかにも学者肌の素朴な人柄で、誰からも慕われたことで知られていますが、その人柄についても、とても魅力の伝わる文章で書かれていて、叶わぬことですが、お会いしてみたかった、という想いが募ってしまいます。
また、シーボルトが、日本の植物(アジサイなど)をヨーロッパに紹介したことは有名ですが、そのように外国人が公務で日本に滞在して、自分の仕事とは直接関係のない、日本の文化を自国に伝えているのに、日本人はなぜ、辺境に送られると、左遷だと嘆いて、酒やギャンブルに溺れるだけなのか、すぐそこに、素晴らしい未知の世界が広がっていると言うのに、と日本人駐在員のふがいなさを悲しんでおられたり。耳の痛い話です。
時間がないから豊かに暮らせないのではありません。時間は作るもので、心の持ちようで、いかようにも豊かに暮らせるもの・・・そんな気持ちにさせてもらえる本です。文章もとても引きこまれるものですが、何より細密な植物画の数々は、本当に見事です。男性らしい、彩色なしの鉛筆画の正確さは息を呑むほどです。