ジョン・テニエルと『アリス』を描いた画家たち
ジョン・テニエル(John Tenniel)1820年2月28日 - 1914年2月25日
『不思議の国のアリス』の最初のさし絵を描いたことで、あまりにも有名な挿絵画家。ヴィクトリア時代を代表する風刺漫画家でもある。
『不思議の国のアリス』から、「アリスのお茶会」
左/「Punch」掲載の風刺画(1862)
米国大統領リンカーンの顔をしたアライグマが、英国人に木の上に追い立てられている。この風刺画が、右の『不思議の国のアリス』の チェシャ猫をアリスが見上げる絵の原形になったと言われている。
■経歴
・1820年2月28日ロンドン生まれ
・英国美術院に入学するが、間もなく学校を退学、絵画はほぼ独学で身につけた。
・1836年、16歳で最初の油彩画をイギリス王立美術家協会の展覧会に出品。
・1840年、20歳のとき、フェンシングの教官だった父とフェンシングをして、右目を失明。
・1845年、25歳のとき、ウエストミンスター宮殿の壁面のデザインとして、16フィートもの風刺漫画を出品。その年に開催されたコンテストの公平性を揶揄した。これがきっかけで、イギリス貴族院の詩の広間のフレスコ画の依頼を引き受ける。
・1850年、30歳のとき、リチャード・ドイルが『パンチ』誌を辞すると、編集主幹マーク・レモンの招きに応じ、ジョン・リーチとともにその後任に収まる。
・テニエルの作風はリーチの作風とよく似ていた。リーチ亡き後は毎週、主要な政治風刺漫画をひとりでこなし、1901年に81歳で引退するまで、約50年の間『パンチ』誌や特集号などに2000点以上の風刺漫画やカットを描いた。
・1893年、73歳で英国首相グラッドストーンに推挙されて、ナイト爵に叙された。商業イラストレーターとしては初の栄誉。
・1914年、3日後に94歳の誕生日を迎える2月25日に世を去る。
■画家としての才能
・画家のチャールズ・キーン(1823-91 英国の有名な絵入り新聞『Illustrated London NEws』の専属挿絵画家としても活躍)と早くから親交を結び、風刺画に素晴らしい上達ぶりを見せる。
・抜群の観察眼の持ち主で、モデルを一切使わず、想像力や記憶力をもとに片方の目だけで驚異的な数の作品を描き上げた。
■風刺漫画家と挿絵画家を両立
・『ウンディーネ』『子どもの歌と絵の本』挿絵(1846年)
・『イソップ寓話集』(1848年 挿絵100点)
・『ララ・ルーク』(1861年 トマス・ムア 挿絵69点)
・『アラビアン・ナイト』(1863-65 ダルジェル兄弟)
・『不思議の国のアリス』(1866年 ルイス・キャロル)
・『鏡の国のアリス』(1872年 ルイス・キャロル)
■『不思議の国のアリス』のエピソード
・作者のルイス・キャロル(チャールズ・ドジスン)は最初、『アリス』の挿絵をウォルター・クレインに頼むつもりだった。しかしクレインの予定が立たず、テニエルに依頼することに。
・キャロルとの仲はよくなかった。理由として、キャロルの注文が多く、描き直しを迫られるたび、テニエルがそれを全面的に受け入れたため。
・普段はモデルを使わないテニエルに、キャロルは「アリスに似た子ども」をモデルに絵を描かせ、できあがった挿絵は酷評される。
・「蝋人形のよう」「大人子どものよう」と酷評されたアリスだが、多くの画家の描いたアリスの中で、今でも一番の人気を誇る。
・『不思議の国のアリス』(1865年)の初版本は、テニエルのクレームにより発売中止に。(現在この本は高値がついている)
・テニエルが許可して再発売されたのは、1865年11月(奥付は1866年)
・仲が良くなかったにもかかわらず、キャロルは続編『鏡の国のアリス』の挿絵もテニエルに依頼。ライオンやユニコーンを政治家に似せて軽く風刺を盛り込む。テニエルは白の騎士にそっくり。
・長生きをしたので、1907年『不思議の国のアリス』の著作権が切れた後、多くの挿絵画家の描いた『アリス』をたくさん目にすることができた。
ディケンズ「憑かれた男」(1848)/「エドガー・アラン・ポー詩集」(1858)
参考:連想美術館
<子どもの本>黄金時代の挿絵画家たち(リチャード・ダルビー・著/吉田新一・宮坂希美江・訳 2006 西村書店)
『不思議の国のアリス』といえば、テニエル、もしくはディズニーのイメージがとても強いですが、実はものすごくたくさんの挿絵画家やイラストレーターが描いています。
上のイラストは、作者のルイス・キャロル自身が、アリス・リデルへのプレゼントに自分でイラストをつけて仕上げたもの。なかなか味わいあるイラストです。最初は『不思議の国(Wonderland)』ではなく『地下の国(Underground)』だったのです。
意外なところでは、『ムーミン』で有名なトーベ・ヤンソンも描いていたりして、驚きます。なるほど、アリスの中にムーミンが息づいています。
日本でもいろんな方が描いてらっしゃいますが、ちょっとアバンギャルドなイラストレーターを取り上げてみました。金子國義さんはパティスリー『クイーンアリス』のイメージイラストも手がけてらっしゃるので有名ですね。宇野亜喜良さんのは、他のイラストも見ましたが、アリスがほとんどヌード(!)で、すっごくエロティックなところが宇野さんらしくて素敵だったりします。
そんな作品が続きから見られます。
アーサー・ラッカム メイベル・ルーシー・アトウェル チャールズ・ロビンソン
(Arthur Rackham) (Mabel Lucie Attwell) (Charles Robinson)
ベッシー・グッドマン マリア・L・キーク ヘレン・オクセンバリー
(Bessie Pease Gutmann) (Maria L Kirk) (Helen Oxenbury)
グウィネズ・M. ハドソン A・E・ジャクソン トレヴァー・ブラウン
(Gwynedd M Hudson) (A.E. Jackson) (Trevor Brown)
マーガレット・タラント リスベート・ツヴェルガー
(Margaret Tarrant) (Lola Anhlada) (Lisbeth Zwerger)
ジュールズ・フランク・モンドローニ 金子國義
(Jules Franck Mondoloni) (Iassen Ghiuselev)
宇野亜喜良 ヤン・シュヴァンクマイエル
(Jan Svankmajer)
トーベ・ヤンソン J・オットー・シーボルド
(Tove Jansson) (J. Otto Seibold)
その他・・・ミリセント・サワビー(Millicent Sowerby)、トマス・メイバンク など
参考:Alice Illustrators
テニエルでないアリス(1)(2)(3)