ドラクロワからムンクまで 〜19世紀ヨーロッパ絵画の視点

040707nagoya_boston1.jpgもう一ヶ月近くたってしまいましたが、7/7に名古屋のボストン美術館に、『ドラクロワからムンクまで 〜19世紀ヨーロッパ絵画の視点』を見に行きました。名古屋ボストン美術館は、米国ボストン美術館と提携して運営されている美術館です。今回も、本国のボストン美術館のコレクションから、展示されています。4月から開催されているこの展示会も、9/12(日)まで、あと約一ヶ月を残すところとなりました。

全体的には、少ーし物足りないような気がしてしまいました。点数?それとも、企画?ちょっと、パンチが弱いような、そんな印象を受けました。個々には、いい作品がたくさんあったのですが。MOMAやイメージをめぐる冒険の際にも書きましたが、最近の展覧会の傾向として、『〜派』と呼ばれる美術の流れでくくるのではなく、その絵画が本質的に訴えようとしているものを捉え、時代や流派を超えて、表現されているものを、ひとつにまとめようとする展覧会が多く見られます。

19世紀という限られた時間ではありますが、本展覧会も、そのひとつであるといえると思います。第一章・古への憧れ 第二章・東方への憧れ 第三章・現実を見つめる 第四章・近代生活を見つめる、の四つのパートに分かれて展示されている絵は、時間を超えて、強い想いを訴えてきます。以下は、4つのパートごとの感想です。いつもながら長いです。



☆第一章「古への憧れ」
印象派以前の絵画の世界においては、絵画のモチーフの中で、一番崇高なのは、歴史や神話の世界を描くことだとされていました。古代ギリシアやローマの歴史や伝説、ラファエル前派、ルネッサンス様式など、19世紀とは、古に熱中した時代だといえます。これを、20世紀初頭には、過去に頼りすぎで、着想に欠いているとみなされましたが、さらに100年経った、21世紀初頭の現代では、19世紀とは創造的で脈動する時代だったと、理解されているようです。ホメーロスの叙事詩や神話、宗教に題材を取った絵画、また、現代の恋人を描きながら、ルネッサンス時代の服装をさせ、その時代を思い起こさせる絵を描いたものなど、細密で、美しい絵画が続きます。

☆第二章・東方への憧れ 
西洋の人たちの、オリエンタリズムへの憧れというのは、今も昔も変わらないようです。19世紀初頭のヨーロッパ人にとっての東方とは、ペルシアやトルコなどのイスラム圏を指しています。やがて、19世紀も終わりになると、今度はアジア、特に日本への関心が高まり、それが、アールヌーヴォーなどの芸術運動へ結びついていくわけですが、ここでは、東方=中近東の作品を見ることが出来ます。われわれ日本人にとっても、オリエンタリズムへの旅情をかき立てられる絵が多いでしょう。

ロマン主義の中心的画家で、後に大きな影響を与えたドラクロワ、そのドラクロワへの賞賛に触発されて東方を旅したルノワールなど。ロマン主義というと、なにやらロマンティックな甘い絵を描いたのかな?などと、わたしなどは思っていましたが(笑) 、ドラクロワの絵は、ドラマテッィクで、雄大なロマンにあふれています。今まさにライオンを捕らえようとする『ライオン狩り』は、よもやモデルを前にしての、忠実な描写ではないでしょうが、まるでこの瞬間、目の前で展開していることのように、見る者をその世界へ引き込みます。

☆第三章・現実を見つめる
19世紀の美術世界は、大きな転換期であったと言えます。上にもあるように、当時は、古典主義やロマン主義以外の絵は好まれず、現実の生活を描いた絵は、低く見られ、軽蔑の対象にすらなりえました。しかし、同時に写実主義に傾倒する運動が起こり始めました。今では、目の前にあるものをそのままに描くのは、むしろ古典的な手法で、そこから、いかに自己を表現するかが、主題となってきますが、当時は、目の前のものをそのままに描くという、一見当たり前に思えること自体が、とても前衛的だったと考えると、絵画の歴史は、面白いものだなぁと感じます。

強い存在感のある農民の姿を、多く残したことで知られるミレーや風景画家として知られ「自然の詩人」と呼ばれたコローが晩年に残した人物画などが見られます。特にミレーの「羊飼いの娘」は圧巻です。堂々とした農家の娘の誇り高き存在感が、見るものに迫ってきます。

☆第四章・近代生活を見つめる
ボードレールの言葉にあるように、近代性とは束の間で、はかなく、偶発的です。流行は常に移り変わり、今日新しいものは、明日には古くなります。そんな一時的な流行から、詩情を引き出し、束の間から永遠を抽出しようという試みがなされるようになったのもこの頃。第三章と同じように、現実の生活を描きながら、ここでは、貧しい農民ではなく、パリの流行の世界に属する人々を中心に描いた作品を多く見られます。

印象派には属さないけれど、近代絵画のキーパーソンとされ、彼がいなかったら、印象派は現れず、近代絵画の歴史は変わっていただろうといわれるマネ、印象派のルノワール、ドガ、ポスト印象派のゴッホ、ロートレック、そしてムンク。ムンクの絵にあふれる苦悩と、絶望的な孤独の雰囲気は、どこからやってくるのでしょう。色彩?人物の表情??そんなことを思いつつ、その絵の前から、しばらく離れることが出来ませんでした。


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