「老若男女世界文学選集8-宇宙の眼-を描く」終了しました(gallery dazzle・北青山)

150617utyuu_hina1web.jpg北青山(外苑前)のギャラリーDAZZLEで開催されていた「宇宙の眼-を描く」無事終了いたしました。展示会場の写真はコチラで見られます。悪天候の中、脚を運んでくださった方、気にかけて下さった方、ありがとうございました。

この展示は「宇宙の眼」と言う作品の装幀を制作すると言うものでした。その内容はと言いますと、ある事故をきっかけに、8人の男女が奇妙な世界に迷い込みます。その世界は非常に不気味で恐ろしい世界で、表紙(表1)の8人の男女と1人の女性(彼女は事故には遭遇していませんが、奇妙な世界には登場)は、何を考えているかわからない、不気味な表情を浮かべています。

ひっくり返して裏表紙(表4)、一瞬「なんだ、表紙と同じか」と思ってしまいそうですが、よく見るとどこかが違います。実は、この物語の中である「鍵」を握る人物は、裏表紙ではニヤリと笑っているのです。そのことに気づくと、結構怖いかもです。表1側だけに描かれたネコは、帯を取ると現れる、可愛らしい仕掛けになっています。作中で一番散々な目に遭うネコちゃん、愛を込めて描きました。
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150617utyuu_hina2web.jpg帯を付けるとこんな感じ。帯の文言も自分が考えました。「観測台の事故に巻き込まれた8人の男女が迷い込んだ世界とは?」と言うフレーズはオリジナルで、下敷きのようにグレイで書かれているセリフは、物語の中で主人公と妻のもので気になったものをチョイス。
妻「わたしたちが生きていけるか、という問題。答えはノーだわ。いいえ、それよりずっと悪いかも」
主人公「ただ、ここにすわって待っているより、どんなにいいかわからない。この世界は終わらせなければならないんだよ」

なお、コチラの素敵な装幀は、マルプデザイン宮崎萌美さんが担当してくださいました。


     


今回のこの展示、終わってみればあっという間でしたが、やはり長丁場でした。普段参加する展示は、まずテーマだけは与えられて、搬入日までに各自自由に描いて搬入する、と言う感じ。人によっては、制作に何か月もかける人もいるのでしょうが、私は割とギリギリに仕上げるタイプで、だから展示(グループ展)にかける時間は、長くて1か月と言うところでしょうか。しかしこの展示は、4月のワークショップに始まり、5月に2回目ワークショップ、その後ペアを組むデザイナーさんが決定し、5月末に面談(もしくはスカイプ)で方向性を決定し、6月初めに制作。やっぱり長いですよね。

でもこうして、一つの作品を向き合うことが出来たのは、とてもいい経験になりました。特に文藝の場合は、作品を味わってこそよい装画が描けるというのも実感しましたから。人物を全員描くというのもよい経験で、いつもなら、興味のない人物はすっ飛ばして描いちゃってたと思うので。でもその気乗りしなかった人物が意外とうまく描けたりして。そんな発見があったのも楽しかったです。

今回はたまたま、私は登場人物を全員使っていただけましたが、たとえ使われなくても描いてみるのは大事だということもよくわかりました。ある大御所の言葉で、物語を作るときには、リンゴの表だけでなく、見えない裏側まで考えて書かねばならない、というのがあるそうですが、イラストも同じで、たとえ人前に見せることが無くても、そこまで考えている伸びしろのある絵と言うのは、やはり強いのかな、と思ったり。

私も今回、上半身しか使われておりませんが、実は全身描いていて、各登場人物の服装までしっかり描きこんでいます。時代背景や各自の性格などを盛り込みつつ、全身を描くのはとても楽しい作業でした。→全身画像はコチラ■

実際の仕事の場合、制作時間がタイトな中で、そこまで作りこむのは大変なことではありますが、できるだけ心がけていこうと思いました。そういえば、魅力的なイラストレーションはリンゴ1つ描いても魅力的だ、というのも、上記とは別のある大御所の言葉でした。大御所はリンゴにたとえるのが好きなのか?
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150709dear_mariko_web.jpgおまけ。
最後に、お世話になったオーナー、村松さんへの感謝を込めて、みんなで特製本を作ってお渡ししました。会場ではこんな風に見ることが出来たそうですが、これを制作したのは、会期真っ最中で、私は搬出にも行けなかったので、手に取ってみることは出来ませんでした。みんなどんなの描いたのかなー。見られなくて残念。
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左のは私から。全然お礼になっていませんが(笑)、宮崎さんからは、すごく特徴をつかんでると褒められました。ほほほ。写真を見る限り、喜んでくださったようで、よかったよかった。

最後に、冊子に載せた私の感想をコチラにも記して終わります。

私は、この作品は、ファシズム的なものへの警告だと捉えました。たとえどんな思想の持ち主だとしても、一人の人物の思想に世界が染められてしまうことが、どれほど恐ろしいか。また、何を描いても児童書的になってしまう私の絵の中に、グロテスクさ、怖さがあると言っていただいたのがとてもうれしく、ふんわりと可愛らしい中に、この作品の持つじんわりとした恐ろしさ、不気味さを表現できれば、と思いながら描きました。これを機に、もう少し絵の中に毒を忍ばせられたらいいな、と思います。

マルプ日報 2015年7月13日 -宮崎萌美
宇宙の眼を描く〜閉幕〜
http://malpu.com/nippou/2015/07/nippoui7697.php


              


ここから先は超余談。
考えてみれば、仕事でも、いや、むしろ仕事ではこんなに時間をかけて作ることはありませんよね。いえ、文芸書なんかだと時間かけてじっくり作りこむのかもしれないけど、私が以前に装画を描いたときは、依頼から納品まで一週間と言うタイトなスケジュールだったような。。。それがコレで、今とは全然画風が違いますが(画材はアクリル)、割と評判がよかったのでした。まさしく児童書ど真ん中の活動をしていた頃の絵です。地球を船に見立てて、海に浮かんでる、というアイデア出しからで一週間。頑張りましたね。

そうそう、最近はイラストの納品はほとんどデータですが、これは現物納品しました。すごく大きくなってしまったので。バックも自分で色塗って、一枚絵で、絵の部分だけでもA4くらいあったので(全体はこんな感じ)、とても家庭用のスキャナでは取りこめなくなってしまったんですよね。それで、現物を宅急便で送りました。仕事の納品で現物を送ったのは、コレを含めて3回くらいしかありません。今はこの仕事で毎週送っていますけどね。


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