『生きながら火に焼かれて』 スアド・著

タイトルもショッキングですが、本の表紙もショッキングです。この本のことは、ネットのお友達のサイトで知ったのだけど、とにかく「え?どういうこと?」と思って、読まずにはいられませんでした。

生きながら火に焼かれたのは、まだ17歳の少女でした。彼女は、悪いことなど、何一つしていません。それに、たとえ罪を犯したとしても、それを裁き、殺す権利は
たとえ家族と言えども、誰にもないはず。シスヨルダンの小さな村での常識では、彼女は殺されて当然でした。それは『名誉の殺人』と呼ばれ、殺人を犯した者は、称えられこそすれ、罪に問われるということはありえません。

火あぶりになった彼女は、奇跡的に村を逃れ、助けられます。そして、ヨーロッパのある町で、優しい夫と子供たちと暮らしています。その事件から、25年経った今でも、彼女を殺そうとした追っ手から、身元を隠すために、こうして本を出しても、本名も、顔も出すことはできません。それで、表紙の彼女は、白いマスクをつけています。

一体、なぜ、彼女は、生きながら火に焼かれねばならなかったのでしょう。

世界は、広いです。この世界中には、わたしたちの生きているこの日本の常識では
考えられないような、さまざまな状況が存在します。もっと、知らなければいけないと思いました。知ってしまったら、今度は何かできないか、と思いました。まずは、多くの人に、この本を読んで欲しい。知って欲しいです。


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

「功名が辻」

司馬遼太郎の「功名が辻」を読みました。

司馬さんのですので、当然歴史モノ、ノンフィクションです。どんな話か、かいつまんで話しますと、土佐藩の開祖、山内伊右衛門一豊の妻、千代は、日本史に残る賢夫人、ということらしいけど、その千代が、夫をとにかくうま〜く操縦して、どんどん出世させていきます。結果、律義者なだけが取柄と言われている伊右衛門が、土佐250万石の大名にまで上りつめるのです。

司馬さんですので、面白いです。引き込まれます。中には、推測の域を出ないような言い伝えも、まるで、その場で見てきたかのような、生き生きとしたエピソードに、膨らませてしまう、その文章力は、さすがですね。

いろいろ、考えさせられました。男の人って、可愛いものなんだなぁ。(みんなが、一豊さんみたいではないのでしょうが)。でもそれを、本人には気取られず、上に上に立てていくことが、大切なのかなぁ、と。そのあたりのことを、よくわかってる女性が、男性を伸ばすことのできる、いわゆる「あげまん」(意味が違うかもしれないけど(笑))になりうるのかもしれませんねぇ。


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

茶色の朝

040323brown.jpgちぇしゃさんから紹介があってから、ずっと探し続けていた本。近所の本屋では、見当たらなく、出先でようやく見つけたので、早速購入。しかし、帰りの電車の中で、すでに読破。

とにかく、短い話なのだ。だけど、その短い言葉にどれほど多くのことが、込められているだろう。少しずつ、それとはわからないやり方で、変えられていく日常。気づいたときには、すべてが遅いのだ。

やがて、この日本が、世界が、茶色に染まるときがやってくる。このままで行けば、必ずその日は来る。茶色い犬と、茶色いネコと、茶色い新聞しかない世界。わたしも、茶色いひよこの絵を描かなくてはいけなくなるのだろう。

何ができるのだろう?何をすればいいのだろう?ずっと、考え続けている。答えは見つからないけれど、でも、考えるのをやめてはいけないのだ。わたし一人では無理でも、同じ思いが集まっていけば、大きな力になる。きっと動かすことができる・・・そう信じて。ぜひ、この本を読んでみてください。



  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

「白河夜船」(吉本ばなな) 向こうの世界とのはざまで

最近、本を3冊読んだ。宮本輝さんの「星々の悲しみ」「葡萄と郷愁」と吉本ばななさんの「白河夜船」。宮本さんのは、自分とは境遇が違いすぎて、おもしろいと思って読むけれど、共感と言うのとは、少し違う感じ。やっぱり、女性のもののほうが、入り込みやすいかな、とは思う。でも、自分とまったく違う世界を垣間見るのも、読書の醍醐味ではあるので、どちらも、楽しんで読んでいました。

「白河夜船」は、タイトルどおり、うとうとと眠ってばかりいる女の子の話。この人の作品には、よくあの世に行っちゃった人とか、現実との狭間とかが出てくる。いわゆる「奇妙な世界」に入り込んじゃった、みたいな話が多い。この本には、3つの中篇が収められているけれど、睡魔に襲われている人と、酔っ払いが出てくる(笑)覚醒していない状態にあるときの人間は、はからずも、あの世との境の扉を開いてしまっているのかもしれない。

強い悲しみや、どうしようもない無力感に襲われたとき、底の見えない深い苦悩の沼に落ち込むとき、人はどこかに逃げ場を探そうとするのかもしれない。わかりやすいのは、お酒や薬物に逃げること。それと同じように、眠りに逃げ場を求める。でも、逃げてもどうにもならない。

どんなに苦悩しても、朝日は昇り、紫に空を染めて日は沈む。どんなに苦悩しても、花は咲き、鳥は春を告げて高らかに鳴く。どんなに苦悩しても、美しいものを見れば、心が震える。それが生きると言うことだから。


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

本を読んで泣く〜「トラッシュ」山田詠美

山田詠美「トラッシュ」を読んだ。わたしは、あまり一人の作家の本を読み漁ると言うことをしないのだけど、彼女の本は、比較的たくさん読んでるほうだと思う。この作品は女流文学賞を取ったもので、著者としては最長の作品である。でも、長さを感じないほど、さらりと読めてしまう。最近になく感動したのは、共感できる部分が多いからなのかもしれない。

家で本を読む時間はないので、電車の中とか、ランチで入ったカフェなどで、読むことが多いんだけど、もう泣けて泣けて、困ってしまった。彼女の本は多く読んでるけど、泣いたのははじめてかも。それほど、せつない物語だった。幸せと言うものについて考える。目の前の幸せを享受する事に不器用な恋人・リック。でも、リックの気持ちもわからなくはないのだ。幸せな自分に、慣れることができないと言う悲劇。わたしの中にも、彼に似た部分があるからなのかもしれない。


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

『RPG』 宮部みゆき

宮部みゆきさんの「RPG」を読んだ。実は彼女の作品は、これが初めてなのですが、おもしろかった。ぐいぐい引き込まれてしまうのは、さすがだ。

心に残った言葉がいくつか。警察官である女性の思う言葉。
「誰かを助けたり、誰かの役に立つために頑張りぬく精神力も必要だが、それと同じくらい、いやそれ以上に切実に、誰も助けることができなかったり、誰の役にも立てなかったときに、そういう自分に耐え抜くことのできる忍耐力も必要とされるのだ」
これは、何も警察官だけに当てはまるのではないと思う。人は、誰かの役に立ちたいという潜在意識があるのだと思う。だからこそ、世の中で一番辛いのは、自分が誰にも必要とされていないと感じること。困っている人、打ちひしがれている人を前にしても、何もできないと感じること。そんな、無力感なのではないだろうか。

また、警察官である男性の言葉。
「自分で自分をお人よしだと言う人間を信用しない」
これは、言えてると思う。わたしもそうかもしれないと思った。


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

自分の限界〜「キッチン」よしもとばなな〜より

040207plants.jpg去年の冬に買ったアマリリスが、ようやく芽を出した。実はこれ、冬になったら、当然家の中に入れてやらないといけなかったんだけど、なんとわたし、1月の半ばまで、すっかり忘れて外に放置してたのだ。でも、去年の葉が青々としてて、すんごく元気だったので、なーんだ、大丈夫じゃん♪なんて思ってたら、室内に入れた途端、見る見る枯れて行き・・・あああ、力尽きたかぁ〜〜〜なんて思ってたら、ある日、こんな風に〜〜〜〜!やったぁ〜〜〜♪
   

        ******************************


花を育てていると思い出すのは、吉本ばななの「キッチン」の続編。主人公が、ある人から「自分の限界を知りたいときには、何かを育ててみるといい。そうすると、自分にどれだけのことができるか、わかるから」と言われるくだりがある。

あー、何でこう、花を枯らしてしまうのだろう。何でどんどん、庭が荒れていくのだろう。そう思うたびに、自分の限界を思う。

同じ話の中で、主人公が料理を習いに行って、どんどん上達して、認められていくことに、最初はとまどうのだけど、だんだん納得する。「そのわけがわかった。自分と周りの人たちとの、料理にかける意気込みが、あまりに違いすぎるのだ。」周りは、花嫁修業程度の気持ちで習いに来ている女性ばかりで、そんな中で、本気でプロを目指そうとしている自分とは、上達に差があって当然だと言うのだ。

同じことを、同じ期間、同じ金額を支払って行っても、自分がどうして行きたいのか。目的を持っているのといないのとでは雲泥の差なのだ。目的や行き先は、見えたと思うと、またすぐに見失う。うつろいやすいもの。でも、たとえ何度見失っても、決してあきらめずに、また見つけて行きたい。一度決めたことなら、少し形が変わっても、どこかで、目的地にたどり着きたいのである。


#gardening


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

中吊り小説/吉本ばなな 他

JR東日本Tokyo Trainキャンペーンの一環で、東京地区のJR電車内に掲出された中吊りポスター。「連載 中吊り小説」19編が、一冊の本になったもの。この中吊り小説が連載されていたのは、1991年9月〜1992年12月。バブル真っ只中ではないけど、まだまだ不況がそれほど深刻ではなかった頃。当代きっての人気作家たちの作品を、無料で読ませようというんだから、JRも太っ腹、企画としてはバブルそのものって感じがします。

その頃わたしは、名古屋で自転車通勤していましたので、東京にも、JRにも縁がありませんでしたねー。これ、リアルタイムで読んでらした方、いらっしゃいますか?

掲載作家一覧
吉本ばなな 高橋源一郎 阿刀田高 椎名誠 村松友視 泉麻人 曽野綾子 森村桂 高橋三千綱 嵐山光三郎 秋元康 森瑤子 ねじめ正一 赤川次郎 和田誠 浅井慎平 安西水丸 常盤新平 伊集院静

中身の詳しい感想を、続きに書きます。ネタばれになっちゃいますので、まだ読んだことのない方は、読まないでくださいね〜(笑)


続きを読む>>


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

紙婚式/山本文緒・著

とっても怖い本でした。とはいっても、オカルトやホラーじゃありません。
これは、自分で「幸せな結婚生活を送ってる」と思ってる方に、ぜひ読んでいただきたいなんて思ってしまう・・・そういう方が読むと、怖さ倍増(笑)これを読んで「この本、読んでみよう」と思った方は、ネタバレになりますので、続きはクリックしないでくださいね。


続きを読む>>


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

佐藤達夫 花の画集 SATO’s FLORA

佐藤達夫さん、元人事院総裁として知られる人ですが、ボタニカルアートを愛する人としても有名でした。残された沢山の植物画などを新たに編集した、これは、佐藤さんのフローラ(植物誌)です。花を愛する男性と言うのが、あまり身近にいないせいか、この方の本を読んでいると、ますます不思議な気がしてしまうのですが・・・考えてみると、著名な植物画家はみな男性でありました。(ルドゥテ・フィッチ・・・そして牧野富太郎博士も)

この方はお忙しいお仕事の合間を縫って、野山に出かけ、本当に素晴らしい植物画を残されただけでなく、珍しい品種の標本なども数多く手がけ、その功績は本当にすごいことだと思います。植物に対する慈しみの気持ち、そして人に対しても温かなお気持ちで接してこられたのを、この文章の中から読み取ることができます。交流のあった牧野富太郎博士は、いかにも学者肌の素朴な人柄で、誰からも慕われたことで知られていますが、その人柄についても、とても魅力の伝わる文章で書かれていて、叶わぬことですが、お会いしてみたかった、という想いが募ってしまいます。

また、シーボルトが、日本の植物(アジサイなど)をヨーロッパに紹介したことは有名ですが、そのように外国人が公務で日本に滞在して、自分の仕事とは直接関係のない、日本の文化を自国に伝えているのに、日本人はなぜ、辺境に送られると、左遷だと嘆いて、酒やギャンブルに溺れるだけなのか、すぐそこに、素晴らしい未知の世界が広がっていると言うのに、と日本人駐在員のふがいなさを悲しんでおられたり。耳の痛い話です。

時間がないから豊かに暮らせないのではありません。時間は作るもので、心の持ちようで、いかようにも豊かに暮らせるもの・・・そんな気持ちにさせてもらえる本です。文章もとても引きこまれるものですが、何より細密な植物画の数々は、本当に見事です。男性らしい、彩色なしの鉛筆画の正確さは息を呑むほどです。


  •   このエントリーをはてなブックマークに追加  

<< 10/11 >>